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テラーノベルの小説コンテスト 第4回テノコン 2025年1月10日〜3月31日まで
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 ──その日の放課後。


 二人肩を並べて帰路につく道すがら、すぐ隣を見てみればそれは楽しそうに笑っている茉莉がいる。

 今日あった出来事を楽しそうに俺に語り聞かせる茉莉。その横で、新しくできた彼氏のことで気もそぞろな俺は、ただ黙って静かに歩みを進める。それでも、そんな俺の態度に一切不満の色などみせない茉莉は、相変わらず楽しそうに声を弾ませている。


 いつか俺の気持ちが茉莉に届いてくれれば──。

 そう想い続けて大人しく”幼なじみ”を演じてきたけれど、一向にその想いは届くことなく、ただ、その”想い”だけが醜くく捻じ曲がったモノへと変貌してゆく。



(こんなに苦しいなら、いっそこの”想い”は捨ててしまおう)



 そう思ったことも、正直一度や二度ではない。

 けれど、そう思って簡単に捨てられるようなものでもなく、茉莉に新しい彼氏が出来る度に深く傷付いては、更にドス黒く染まってゆく茉莉への恋情。


 こんな愛し方を自ら望んだわけではない。けれど、哀しいほどに茉莉を切望するその想いは自然と俺の中から溢れ出し、受け皿を持たないその想いはただ泥水となって足元に溜まってゆくばかり。

 それはいつしかドロドロとした底なし沼となって、俺の足を捉えたが最後息絶えるまで決して離そうとはしてくれない。

 

 息苦しさに思わず顔を歪めると、そんな俺の異変に気付いたのか、不意に立ち止まった茉莉は俺を見つめて哀しそうに微笑んだ。



「……蓮。これからもずっと、そばにいてね」



 茉莉がこの言葉を言うようになったのはいつからだっただろうか──。


 あれは確か、中学に上がる頃。茉莉の両親が離婚してからだったような気がする。

 時折寂しそうな笑顔を浮かべては、『蓮だけはずっとそばにいてね』と哀しそうに告げる茉莉。当時は単純に嬉しかったその言葉も、今となっては”呪いの言葉”のようで酷く苦しいだけ。



「茉莉には……っ、彼氏がいるだろ」


「きっとすぐに別れるよ。恋愛ってそんなものでしょ? パパとママみたいに、いつか必ず別れがくる。私にとって大切なのは……今も昔も蓮一人だけだよ」


「っ……! じゃあなんで彼氏なんて作るんだよ!」



 ”俺が一番大切”だと告げながら、そのくせ”恋人”には違う男を求める。そんな茉莉のことが許せなくて──でも、それ以上に愛する気持ちを止めることができない。

 その地獄のような苦しみから逃れるかのように、俺は茉莉の腕を掴んで引き寄せるとその唇を塞いだ。


 

(お前も俺のいる地獄まで堕ちてこい)



 そんなことを思ってしまう俺は最低なのだろうか──。



「っ……! やめて!」



 俺の胸を思い切り突き飛ばした茉莉は、今にも泣き出しそうな顔をさせるとまるで何かを訴えるかのような瞳で俺を見つめた。

 その瞳は酷く哀し気で、それでいてとても美しく。まるで枯渇した地獄の底に咲くたった一輪の花の如く、酷く魅惑的なものだった。


 




◆◆◆




 


 そのまま真っ直ぐ帰る気分にもなれなかった俺は、小一時間程駅前で時間を潰すとその足で帰途へと就いた。



(きっとまた、茉莉は明日になれば普段通りになるんだろうな……)


 

 そしてまた、ただの”幼なじみ”としての日常が始まる。この長く辛い日々に終わりなどあるのだろうか? 

 そんなことを考えながら角を曲がると、俺はその先に見えてきた光景にピタリと足を止めた。



(最悪だ……)



 今まで鉢合わせないように避けてきたというのに、よりにもよってこんなタイミングで見てしまうとは──そのタイミングの悪さには、自分でも自分自身が嫌になる。

 家の前で寄り添うようにして話している二人の姿を見て、息苦しさから徐々に呼吸が乱れ始める。



(いっそ殺してくれ──)



 そう思う程に酷く苦しいというのに、男と親し気に話す茉莉の姿から視線を逸らすことができない。



「……っ」


(……、お前はやっぱり悪魔だ)



 楽しそうに会話を弾ませながら、とても嬉しそうに微笑んだ茉莉。その視線は確かに俺へと向けられている。



(茉莉……っ、俺はとっくの昔に気付いてたよ……)



 男に擦り寄りながらも、決してその視線を俺から逸らそうとはしない。まるであの日の俺を彷彿とさせるかのように、ゆっくりと艶かしい動きで唇を舐めとると、俺を見つめながら喜悦した微笑みを作った茉莉。


 

(……お前はとっくの昔から地獄に堕ちてる)


 

 仄かに鉄臭い血の匂いをまとった風が、俺の鼻腔を掠めて通りすぎてゆく──そんな気がした。



『大切なのは蓮だけ』



 何度も言われ続けたその言葉は、着実に俺の”心”を侵食していった。



(地獄へ引きずり込まれたのは俺の方だ──)


 

 茉莉の愛情はとても歪んでいる。


 それでも愛さずにはいられない俺自身も、きっと酷く歪んでいるのだろう。



「大好き。この世で一番“あなた”が大切。だから──ずっとそばにいてね」



 そんな言葉を紡ぎながら、目の前の男に向けてそっとキスを落とした茉莉。

 その瞳は確かにずっと俺を捉え続けながら──。


 ”俺のことが大切”だと告げながら、別の男に向けて偽りの愛を囁き“裏切りのキス”を交わす。その姿がどうしようもなく美しく見えてしまったのは、きっと俺が酷く歪みきってしまったせいなのだろう。

 例えそうだったとしても、俺は茉莉と一緒ならどこまでだって地獄に堕ちてもいい。そう思える程に茉莉を愛している。

 だから──。



「これからもずっとそばにいて、茉莉」


 

 ポツリと小さく声を漏らすと、俺は美しくも悪魔のような微笑みをたたえる茉莉に向けてあえかな微笑みを返す。

 二人一緒に堕ちる地獄なら、それはきっと甘い悪夢──。





 これから先もずっと、俺達は永遠に離れることはない。

 








─完─



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