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「…大袈裟だな」
尊さんはおかしそうに少しだけ笑って
今にも零れ落ちそうな俺の涙を、テーブルのナプキンで丁寧に、壊れ物を扱うように拭ってくれた。
その後で、自分の指にも同じデザインのリングを迷いなく通す姿を、俺は瞬きも忘れて見つめていた。
尊さんの白く長い指に、無駄のないシンプルなシルバーリングが、恐ろしいほどによく似合っている。
「尊さん……!これ、ずっと大事にしますね」
「ああ。なくすなよ」
尊さんが少し照れくさそうに笑う。
その笑顔は、仕事中のクールさとは違う、俺だけが知っている柔らかな温もりに満ちていた。
お互いの左薬指で等しく輝く指輪。
その重なり合う光を見つめながら、俺たちはそっと手を合わせた。
尊さんの、俺の手よりも大きな掌から伝わる体温に、心までポカポカと温まっていく。
それからも、俺たちはいつものように他愛もない話を続けた。
初めて会った日のこと
初めて抱かれた日のこと
初めてのデートをした日のこと
一年という月日の中に積み上げられた思い出は、語っても語っても尽きることがない。
格式高いレストランの喧騒はどこか遠くへ消え
俺たちは誰にも邪魔されることなく、ただ二人だけの特別な夜の余韻に浸っていた。
そうやって俺たちの1年記念日は、永遠に色褪せることのない宝石のような思い出となった。
◆◇◆◇
レストランを後にし、駅へと向かう道すがら、俺は何度も左手のリングを見つめていた。
街灯の光を反射して輝くその小さな石が、二人の絆を証明してくれているようで、誇らしくてたまらない。
「尊さん……」
「なんだ?」
「俺、本当に…尊さんと出会えてよかったなって思います」
「……それは、お互い様だな」
どちらからともなく、指と指を絡めるようにして手を繋ぐ。
夜風は少しだけ冷たかったけれど、繋いだ場所から流れ込んでくる尊さんの体温が、何よりも心強くて嬉しかった。
「……恋」
尊さんが愛おしそうに名前を呼んでくれる。
見上げた瞬間、どちらからともなく、吸い寄せられるように唇が重なった。
そのとき────
「……やっぱり、ここにいた」
低く、湿り気を帯びた感情を抑えた声が、背後から突き刺すように落ちてきた。
夜の静寂を切り裂くその響きに、心臓が跳ねる。
反射的に、俺と尊さんの唇が離れる。
触れ合っていた熱が奪われた喪失感よりも先に、言いようのない悪寒が背筋を駆け抜けた。
けれど、繋いだ手だけは離さなかった。
いや、離せなかった。