テラーノベル
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ゆっくりと振り返った先、街灯の薄暗い影の中に佇んでいたのは、見間違えるはずのない男だった。
尊さんの最悪な元カレ、成田薫──。
かつての記憶に焼き付いた傲慢な顔よりも、頬は不気味に痩せこけている。
街灯の逆光で影になったその瞳の奥には、ドロリとした狂気が隠しきれずに揺らめいていた。
「お前…まさかこんなところまで、来るとはな」
隣で尊さんの声が低く唸る。
そこには怒りだけでなく、蛇に睨まれたような、拭いきれない困惑が混じっていた。
けれど成田は問いには答えず、焦点の定まらない瞳でふらふらと俺を捉えた。
かと思えば、すぐに尊さんへと視線を移し、口角を吊り上げてにっこりと歪んだ笑みを作った。
「尊くんへの接近禁止命令出されちゃってさあ……。会社でまた待ち伏せしようと思ったけど警備がうっせぇし、家行ってもいねぇし管理人に通報されそうなるし……」
「どこにいるのかなーって、必死に探し回っちゃったよ。でも、まさかこんなところにいるなんてね」
その声は軽快さを装い、まるで親しい友人に再会したかのようなトーンだ。
しかし、言葉の節々には毒々しい棘が潜んでおり、聞いているだけで吐き気がする。
「減らず口が……またストーカーか」
尊さんの突き放すような冷たい声が夜の公園に響く。
それでも成田は動じることなく、こちらを嘲笑うように大げさに肩を竦めてみせた。
そして、獲物を狙う爬虫類のような目で俺を睨みつける。
「……そっちの、お前がいなくなれば尊くんは俺のところに戻ってくる……お前さえ、いなければ」
憎悪に満ちたその言葉。
けれど、不思議と怖くはなかった。
身体の震えも、いつの間にか止まっている。
俺は、繋いだ手の先で微小に震える尊さんの拳を感じ取った。この人を守らなきゃいけない。
その一心が、俺の背中を支えていた。
さっきよりも強く尊さんの手を握りしめ、俺は喉の奥から声を絞り出す。
「い、い……いい加減、やめてくれませんか……! 尊さんは、もう、あなたのものじゃないんです……っ!」
自分の喉から出た声は、思ったよりも鋭く、強く周囲の空気を震わせた。
自分自身でも、その気迫に少し驚いたほどだ。
けれど、それ以上に劇的な変化を見せたのは成田の顔だった。
先ほどまでの恍惚とした歪な笑みが一瞬にして凍り付き、能面のような無機質な表情を経て
次第に底知れない暗い狂気がその顔を支配していく。
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