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くるみ_226
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第7話 「おいしい」のために
土曜日の朝。
カーテンの隙間から差し込む朝日で、仁人はゆっくりと目を覚ました。
「……ん。」
隣を見ると、ベッドはもう空いている。
「勇斗……?」
リビングへ向かうと、キッチンでコーヒーを淹れている勇斗が振り返った。
「おはよう。」
「……おはよ。」
仁人は眠そうな目をこすりながら椅子に座る。
「朝ご飯、できてる?」
「今日は俺がトースト焼いただけ。」
「え?」
「仁人、昨日仕事遅かっただろ? たまにはゆっくり寝てほしくて。」
その言葉に、仁人は少し照れたように目を伏せた。
「……ありがと。」
「どういたしまして。」
勇斗は嬉しそうに笑う。
素直な「ありがとう」は、とても貴重だ。
◇ ◇ ◇
朝食を食べ終えたあと、二人は近所のスーパーへ向かった。
「今日の晩ご飯、何作る?」
勇斗がカートを押しながら聞く。
「……ハンバーグ。」
「やった。」
「そんな喜ぶ?」
「仁人のハンバーグ、大好きだから。」
「……。」
また、そういうことをさらっと言う。
仁人は照れ隠しに精肉コーナーへ向かった。
「合いびき肉と……玉ねぎ。」
「チーズ入れる?」
「うん。」
「楽しみ。」
勇斗は本当に嬉しそうだった。
◇ ◇ ◇
野菜売り場で買い物をしていると、聞き慣れた声が響く。
「おーい!」
「……太智。」
買い物かごを持った太智が手を振りながらやって来た。
「デート中やん!」
「違う。」
「いや、恋人同士でスーパー来とる時点でデートやろ。」
太智はニヤニヤしながら勇斗を見る。
「今日は何作るん?」
「ハンバーグ。」
「うわ、ええなぁ!」
太智は大げさに肩を落とした。
「勇斗さん、ほんまうらやましいわ。」
「そう?」
「仁人、料理めっちゃうまいもんな!」
「そんなことない。」
「あるある!」
太智は勢いよくうなずく。
「高校ん時、お前の弁当ちょっともろたやん?」
「……勝手に取った。」
「あれ、めちゃくちゃうまかった!」
「それで味覚えとる。」
勇斗はくすっと笑った。
「俺も毎日感動してる。」
「ほんま?」
「うん。外食も好きだけど、やっぱり仁人のご飯が一番。」
仁人は買い物かごを持つ手に少し力を入れた。
「……そういうこと、外で言うな。」
「本当のことだけど?」
「恥ずかしい。」
耳まで赤くなった仁人を見て、太智は声を出して笑った。
「ほんま照れ屋やなぁ!」
◇ ◇ ◇
夕方。
キッチンにはジュウッという音が響く。
仁人は手際よくハンバーグを焼き、ソースを作り、付け合わせの野菜を盛り付けていく。
勇斗はその様子を少し離れたところから眺めていた。
「何。」
「見てるだけ。」
「邪魔。」
「見惚れてる。」
「……。」
仁人はフライ返しを持ったまま固まる。
「料理してる仁人、かっこいい。」
「……。」
「本当に。」
「……そんなこと言っても。」
「言っても?」
「何も出ない。」
「でも耳赤い。」
「見んな。」
勇斗は楽しそうに笑った。
◇ ◇ ◇
「できた。」
テーブルには、ふっくらと焼き上がったチーズ入りハンバーグ。
彩り豊かなサラダ。
コンソメスープ。
炊きたてのご飯。
「いただきます。」
勇斗は一口食べると、思わず目を閉じた。
「……おいしい。」
「……。」
「やっぱり仁人の料理が一番好き。」
「またそれ。」
「毎日食べても飽きない。」
仁人は照れながらも、小さく笑った。
「……なら。」
「うん?」
「また作る。」
勇斗は嬉しそうに笑う。
「毎日でもお願いしたい。」
「毎日は疲れる。」
「じゃあ俺も手伝う。」
「洗い物。」
「任せて。」
「……それならいい。」
二人は顔を見合わせて笑った。
◇ ◇ ◇
食後。
ソファでくつろいでいると、勇斗がぽつりとつぶやく。
「幸せだな。」
「急に?」
「うん。」
「仁人の料理を食べて、一緒に笑って。」
勇斗は仁人を見つめる。
「こういう毎日が、ずっと続けばいい。」
仁人は照れくさそうに視線を逸らした。
「……俺も。」
「え?」
「……そう思う。」
勇斗は少し驚いたあと、ふわりと笑った。
「ありがとう。」
仁人は頬を赤くしながら、小さくため息をつく。
「……今日は素直になりすぎた。」
「たまにはいいよ。」
「次はない。」
「また言って。」
「言わない。」
そう言いながらも、仁人の表情はどこか嬉しそうだった。
静かな夜。
二人の笑い声は、温かな部屋の中でいつまでも優しく響いていた。
コメント
1件
うわあ……第7話、めちゃくちゃ温かかったです🥺🤍 スーパーでの太智とのやり取りも、キッチンでの勇斗の「見惚れてる」も、全部が仁人と勇斗の空気感そのままで、読んでてこっちまで幸せになりました。 「また作る」「洗い物任せて」って、こういう何気ない会話が一番尊いんですよね……。 日常の積み重ねが愛おしいエピソード、ありがとうございます🌙