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くるみ_226
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第8話 熱なんて、聞いてない
月曜日。
朝六時三十分。
いつものように目覚ましが鳴る。
「……ん。」
仁人はゆっくりと目を開けた。
「……だるい。」
体が重い。
起き上がろうとした瞬間、ふらりと視界が揺れた。
「っ……。」
その音に気づいた勇斗が寝室へ顔を出す。
「仁人?」
「……大丈夫。」
そう答えたものの、声にいつもの元気はない。
勇斗はベッドへ近づき、そっと仁人の額に手を当てた。
「熱い。」
「気のせい。」
「気のせいじゃない。」
「……。」
仁人は観念したようにため息をついた。
「昨日、ちょっと夜更かしした。」
「だからって熱は出ないよ。」
「仕事行く。」
「行かない。」
「行く。」
「だめ。」
「勇斗。」
「今日は休もう。」
優しい声だった。
だからこそ、仁人は反論しづらい。
「でも……。」
「会社には俺から連絡する?」
「自分でやる。」
「うん。」
勇斗はスマホを手渡した。
仁人は上司へ連絡を入れ、休暇を伝える。
電話を切る頃には、少し息も上がっていた。
「ほら。」
勇斗は優しく笑う。
「今日はゆっくり寝よう。」
◇ ◇ ◇
一時間後。
仁人は再び眠りにつき、勇斗はキッチンでおかゆを作っていた。
その頃。
スマホが震える。
画面には「太智」の文字。
『今日休みなん?』
勇斗は電話に出た。
「もしもし。」
『あれ? 勇斗さん?』
「うん。」
『仁人おる?』
「熱出しちゃって。」
『えっ!?』
太智の声が一段高くなる。
『大丈夫なん!?』
「熱はあるけど、病院にはこれから行く予定。」
『ほな後でなんか持って行こか?』
勇斗は少し笑った。
「気持ちだけで十分だよ。」
『いや、心配やし。ゼリーとか買うて行くわ。』
「ありがとう。」
『ほな昼過ぎ寄るわ!』
電話が切れる。
勇斗は少し安心した。
仁人には、こうして心配してくれる友達がいる。
◇ ◇ ◇
午後13時。
ピンポーン。
玄関を開けると、太智がスーパーの袋を提げて立っていた。
「こんにちは!」
「ありがとう。」
「ゼリーとスポドリとプリン買うてきました!」
「助かる。」
「仁人、起きとる?」
「今は少し起きてるよ。」
寝室へ入ると、仁人がぼんやりと天井を見つめていた。
「仁人。」
「……太智?」
「大丈夫か?」
「……来なくてよかったのに。」
「何言うてんねん。」
太智は笑ってベッドの横へ座る。
「友達が熱出しとるんやで?」
「……うるさい。」
「元気ないツッコミやなぁ。」
仁人は小さく笑った。
「プリン買うてきた。」
「……ありがとう。」
「ちゃんと治して、またうまい飯作ってや。」
「食べる気満々。」
「そらそうや。」
二人は少しだけ笑い合った。
◇ ◇ ◇
夕方。
熱は少し下がり始めていた。
勇斗がおかゆを運んでくる。
「食べられる?」
「……うん。」
一口。
二口。
ゆっくり食べ進める。
「おいしい。」
「よかった。」
「……でも。」
「?」
「早く治して。」
「うん。」
「俺が作ったご飯、食べさせたい。」
その一言に、勇斗は目を丸くした。
「……。」
「何。」
「いや。」
勇斗は嬉しそうに笑う。
「それ、すごく嬉しい。」
「……。」
仁人は照れ隠しにおかゆを口へ運ぶ。
「元気になったら。」
「うん。」
「ハンバーグ作る。」
「楽しみにしてる。」
勇斗はそう言って、仁人の頭をそっと撫でた。
その手は温かくて、安心する。
仁人は目を閉じ、小さく息を吐いた。
「……ありがと。」
勇斗は何も言わず、優しく微笑んだ。
窓の外では夕日が街を赤く染めている。
穏やかな時間が、二人をそっと包み込んでいた。
コメント
1件
第8話、読みました。熱を出した仁人を勇斗さんが優しく看病して、太智くんが駆けつけてくれる――この距離感がすごく心地よかったです。「早く治して」「俺が作ったご飯、食べさせたい」って仁人から言えたのが、勇斗さんへの信頼の証みたいでじんわりしました。最後の頭を撫でる仕草に、言葉にしない愛情が詰まっていて、夕日に包まれた二人がとても穏やかで。あたたかい気持ちになりました🤍