コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
「勇気、勇気」一歩踏み出す度に、根岸は心の中でそう呟いた。根岸の心の声は、フリーダにも聞こえていた。
クラスの出入り口に根岸が着いた。
教室の窓際の位置にある根岸の席を、連中が取り囲んでいる。
リーダーの和田。野球バカの増田。メガネ猿の小野。パープリン女の南川。
「遅かったな、ネギっち。てっきり今日は休むのかと思ったぜ」
根岸の机の上に腰を下ろし、増田が嫌らしい笑みを浮かべながら根岸に言う。
さぁ、来い。根岸は歯を食いしばり、覚悟を決めた。
「ああ、ようやく来てくれましたね」姿は無いものの、36号の声が根岸の耳元でした。
「今日はどうしても、根岸さんの外見が必要だったのです。今からリモートで根岸さんの体を操らせて貰いますね」
36号の声が終わると、根岸は風邪で少し頭がボォっとした時のような、微かに現実感を失ったような感覚になった。
「おいっ、テメッ、根岸っ。無視してんじゃねぇぞ、コラッ」
プールの授業で耳に水が入ってしまったような感じ。どこか遠くで増田が怒鳴っているが、いつもと違って何も怖くない。
36号にリモートで操られ、現実感を失ったまま根岸は教室に入っていった。
そして、自分の席に近付く。バカ、死ね、臭ぇ、学校に来るな等々、ありとあらゆる悪口雑言が油性マジックで書かれた机に増田が腰を下ろし、根岸を睨み付けている。その他のメンバーも、半円状に広がって根岸を囲んでいた。
「根岸ぃ、テメッ無視してんじゃ……」
「あ〜臭ぇ」
根岸の口を借りた36号が、増田に最後まで言わせず、ポツリと呟く。
「汗臭え汚えケツを、他人様の机に乗せてんじゃねぇよボケッ!」
「んだとっ」
増田が気色ばむ。
次の瞬間、パンチと同じ速度で放たれた根岸の喉輪が増田の喉元に突き刺さり、そのまま増田を床の上に転がり落とした。
投げっぱなしのチョーク・スラムだ。
これまでイジメ・グループと根岸のやり取りを静観していたクラス・メイトたちが、微かにザワつく。
机をグルっと回り、根岸が床の上に倒れた増田のもとへやって来る。
「なあ、増田。お前等、昨日面白いことを言っていたよな。何だっけ?さっさと起き上がらないと、顔面にサッカーボール・キックを食らわす……だったっけ?」
「くっ……糞がっ」
床の上で増田がもがく。
「あ、そうだ。蹴りを食らったらちゃんと「ひでぶ」って言うんだぞ。そうだよな、南川?」
根岸の一言で、36号との昨夜のことを思い出し、南川の顔が一気に青ざめる。
「あれあれ?君たち、仲間がヤられてるのに助けに入らないの?」36号がイジメ・グループを煽る。
「素晴らしい友情だなぁ、増田君よぉ」
言うなり、根岸の肉体を借りた36号が増田に蹴りを放つ。狙ったのは顔面ではなく、右足のすね。風船が割れるようなパチンという音とともに36号が蹴り抜く。
「ぎゃあっ」
増田が悲鳴を上げた。
「ねぇ、これって先生を呼ばないといけなくない?」
クラスの女子たちがヒソヒソと相談している。
クソッ、僕がイジメられている時には、誰もそんなこと言わなかったくせに……
「大丈夫ですよ根岸さん」36号が耳元で囁く。「教師たちが職員室から来る間に、コイツを始末します」
更に右すねに一発。右膝に一発。36号は蹴りを入れた。
「今まで自分がやってきたことを、やり返されるのって、どんな気分?ねぇねぇ、どんな気分?」
36号が増田を煽る。
「あ、そうだ小野ぉ。この小汚い机を和田のと交換しといて」
「え?」
36号の言葉に小野が凍りつく。
「小野君、先ずはメガネを外そうか」
36号の言葉を受けて、小野はメガネを外した。
スパンッ。卓球のスマッシュのような高速の平手打ちが、小野の頬を打った。
「ちゃんと聞こえているのに、聞こえてないフリをするのは良くない」36号が宣言する。「俺の机をNYの地下鉄みたいに落書きだらけにしたのは和田だろ?じゃあ、和田に責任を取って貰わないとな」
根岸の体を借りた36号が和田に笑いかける。
「ね?わーだちゃん♡」
和田が燃えるような目で根岸を睨みつけるが、36号はご機嫌だった。
「小野ぉ、机一つ動かすのに、何でそんなに時間がかかんの?家畜と同じで一々叩かれないとテキパキ動けない感じ?」
「ハ、ハイ。今すぐ」
小野がガタガタと音を立てて大急ぎで机を運ぶ。