TellerNovel

テラーノベル

アプリでサクサク楽しめる

テラーノベル(Teller Novel)

タイトル、作家名、タグで検索

ストーリーを書く

シェアするシェアする
報告する

ドアを開けると、窓から差しこんだ夕日がせまくて汚い部屋を照らしていた。


ゴミ袋で埋まる床を進むと、すぐにキッチンが見える。


少し小さめのダイニングテーブルに、カップラーメンの容器とビールの缶が2つ。


夏が近づき気温が上がり始めたため、部屋に散乱したゴミはいっそう不快だった。


そして何よりも、家中に漂う強い悪臭。


その匂いに顔をしかめながら、制服のスカートに汚れがつかないように気をつけて、リビングへ向かう。


取っ手に手をかけ、ドアを開けた。


夕日の光が眩しくて、少し目を細める。


そして、いっぱいの赤に包まれたその部屋を、その部屋の中を、瞳に映した。


無意識に呼吸を止めた。


突然の激臭にじわりと涙が浮かぶ。


夕日に照らされたその奥に黒い影がひとつ。


私よりも背の高い影がひとつ、《《浮いていた》》。


「っ!」


脚が震えた。ガクガクと震えて立っていられなくなって、その場に座り込んだ。


ふと、昨日の光景が勝手に頭の中に蘇る。


変に目が冴えて眠れなくなった真夜中。

水を飲みにキッチンへ向かった私は、そこの扉の隙間からわずかに光が漏れているのに気がついた。


私はその隙間に片目を押し当てた。


テーブルに向かう椅子に座った大きな背中が見えた。くしゃくしゃの灰色のスーツに包まれた痩せた背中が、不規則に揺れている。


「奈緒…っ…奈緒…」


嗚咽まじりのか細い泣き声。


私は思わず目を伏せた。


もう何度も見ているのに、湧き上がってくるいろいろなものを今日も上手く飲み込めない。


はやくベットに戻ろう。


そう思って、扉から離れようとしたとき、


「あぁ、奈緒。会えた。やっと会えた」


その人は突然、嬉しそうに言った。


私は反射的に顔を上げる。


その人は床に膝をつき、抱きしめる、仕草をしていた。


わずかに見えたその顔には、それは優しい優しい笑顔が広がっていた。その微笑みはもう記憶にもないような、消えかけた思い出の中の彼だった。

この作品はいかがでしたか?

3

コメント

0

👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!

チャット小説はテラーノベルアプリをインストール
テラーノベルのスクリーンショット
テラーノベル

電車の中でも寝る前のベッドの中でもサクサク快適に。
もっと読みたい!がどんどんみつかる。
「読んで」「書いて」毎日が楽しくなる小説アプリをダウンロードしよう。

Apple StoreGoogle Play Store
本棚

ホーム

本棚

検索

ストーリーを書く
本棚

通知

本棚

本棚