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「そっか……竹ちゃん、憂くんに伝えたんだ」
葵の部屋の窓から差し込む夕陽が、彼女と部屋、そして僕の感情の色を茜色に染める。
あの後、竹田さんは葵の家に寄ることなく、そのまま帰ることにした。涙を溢しながらではあったけど、彼女はあくまで笑顔を絶やすことはなかった。
強い人だと、僕は思った。
失恋してもなお、笑顔を向けてくれた竹田さん。すごく辛かったに違いないのに、最後まで彼女は気丈に振る舞った。その姿を見て、僕はある種の勇気をもらった気がしたんだ。
竹田さんの分まで、僕は僕を貫き通す。そう、覚悟を改めて決めることができた。
「葵はさ、竹田さんの気持ち知ってたの?」
静かに、葵は首を縦に振る。そして、表情に憂いを滲ませながらゆっくりと口を開いた。
「――大切な話があるって言われたんだ。どのくらい前だったかな。確か一ヶ月前くらいに。それで学校の裏手にある公園で、憂くんのことを好きになっちゃったって聞かされたの」
でも、と。葵は言葉を紡ぎ続けた。
「でも、竹ちゃんはそれでも私のことを応援したいって言ってくれて。あり得ないよ、普通。自分の恋を押し殺して恋敵を応援するなんて。でも、最初に決めたことは最後までやり抜き通すんだって。そう、言ってた」
「最初に決めたこと?」
「うん。今はさ、クラスの中でもバレバレじゃん? 私と憂くんの関係。でも、竹ちゃんはその前からとっくに気付いてたみたいなの。その時に決めたんだって。『私が葵ちゃんのことを支え続けるんだ』って。私の恋が実るまで」
「――そっか」
さっき見た、竹田さんの笑顔を思い出す。そして、『チクタくん』がSNSで最近投稿していた恋についての内容を。それらを考えるだけで、胸が潰れそうな感覚を覚えた。
きっと今、葵も同じようなことを思っているに違いない。
恋の辛さを知ってるが故に。
「ねえ憂くん? これからも竹ちゃんとはいつも通りに接してあげてね」
「当たり前だろ」
言葉少なではあったけど、今持っている感情の全てを込めて、そう返事をした。
* * *
「さあて葵。覚悟はできてるかな?」
「は、はは、はい。で、できております憂くん様」
期末試験がもう目の前まで迫ってきているので勉強の追い込みにかかろうと思ってたんだけど、葵さあ……。まるで僕がこれから折檻でもするんじゃないかみたいなその怯え方、何さ? そこまで勉強したくないって、色んな意味ですごいと思うよ。
「あ、あの……や、優しくしてね。私、初めてだから……」
それだけ聞いたら、なんか僕がこれからR18的なことを今からしようとしてるみたいなんですけど。
「あの、初めてって。今まで何度も勉強教えてきたでしょ? 全然初めてじゃないし、慣れっこのはずなんだけど」
「そ、それはそうなんだけど……。留年がかかってると思ったら、き、緊張してきちゃって。な、なのでまずは人生のお勉強から――」
「許しません。当分の間は人生のお勉強は禁止です」
「え!? そ、それじゃ私は一体これからどうやって生きていけばいいのよ!!」
半ば逆ギレみたいになってるんだけど、そこまで?
まあ、気持ちは分かるけど。『留年』というプレッシャーから完全にマイナス思考にベクトルが向いちゃってる。でもな、葵。それ、僕のキャラだから。唯一の特徴だから。それを奪わないでおくれよ!
……マイナス思考が唯一の特徴って。
「あ、あのさ。憂くん? もし私が赤点を回避できたら何かご褒美をくれない……かな?」
目の前にニンジンをぶら下げられてる馬じゃないんだからさ。でも、やたらとモジモジしてるし、頬も赤く染めて、可愛く見えて仕方がない。叶えてあげたくなっちゃうじゃん。
それにしても、ご褒美かあ。
「夏休みに入ったら海に行くって決めてたじゃん? それだけじゃ足りないってこと?」
「足りなくはないんだけど。なんかこう、もっと刺激的なご褒美があったら、もっと頑張れるかなあって」
チラリ、と。僕の様子を伺いながらの葵である。なーんか嫌な予感がビンビンするんですけど。
「うーん、刺激的ねえ。例えばどういうこと? 具体的に言ってもらわないと全然分からないんだけど」
「そ、それは……」
と言って、葵は部屋には二人きりしかいないにも関わらず、僕の耳元に近付いてこしょこしょ内緒話でもするかのように言ってきた。耳に吐息がかかり、少しだけ鼓動が早くなる。
が、その内容を聞いた刹那、心臓が早鐘を打ち、全身の血が一気に沸騰した。我が耳を疑いながら。
「お、おま……!? え? そ、それ、本気なの!?」
「ほ、本気だから誰にも聞かれないように言ったんじゃん!」
「言ったんじゃんって……。ここには二人しかいないじゃん?」
「知ってるよそんなこと! それでも気になっちゃうの! お願いします憂くん様! お父さんとお母さんが帰ってくるまで、もうほとんど日にちもないし。どうか! この通りです!」
いや、両手を合わせて懇願してくるのはいいんだけどさ。
でもそれって、色々とヤバいと思うんだけど。その『色々』の中には僕自身のことも入っているわけで。
耐えられるのかな、僕。
『第24話 期末試験と葵と【1】』
終わり