テラーノベル
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「…大丈夫」
そう言ったのは何回目だろう。
本当は大丈夫じゃないくせに。
「やなとくん、ちょっと顔色悪くない?」
後ろから聞こえた声に少しだけ肩が揺れる。
「………いや、平気」
振り返って、いつも通りに笑う。
__そのはずだった。
( ちゃんと笑えてるよな…)
自分で自分に言い聞かせる。
足に力を入れる。
まだ動ける。
まだやれる。
ここで止まるわけにはいかない。
「無理すんなよ」
軽く投げられたその言葉に
ほんの一瞬だけ胸が引っかかる。
( 無理してない … )
そう思い込もうとした、その時
ぐらっ
視界が、大きく揺れた。
「あ……」
足の感覚が消える。
床と体の距離が一気に近づく。
「なと!!!」
誰かの叫び声。
でも、それすらも遠くなる。
( やば___)
そう思った時には、もう
“ 遅かった “
どんっ!
鋭い音と一緒に、体が崩れる。
息が上手く吸えない。
「……っ、はっ、…、」
視界がぼやける。
誰かが近くにくる気配。
「おい、やなと、!」
「しっかりしろ!」
必死な声が、いくつも重なる。
(………ああ)
その声を聞きながら
俺はぼんやり思う。
( また、心配かけちゃった 、)
その考えが浮かんだ瞬間、
胸が少しだけ痛くなる。
「大丈夫だから、喋るな、」
誰かが言う。
でも、その言葉に反応する余裕もない。
意識が、ゆっくり沈んでいく。
( ちゃんと 、…… やらなきゃ 、 )
最後に浮かんだのは、
そんな、どうしようもない意地だった。
そして___
すべてが暗くなった。
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