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「ほんとに、オアシスになってる!来たときと全然違うじゃん」
地上に、ラヴァインの魔法を使って上がることに成功した私達は、崩れた神殿からどうにか抜け出して、日の光を浴びた。燦々と降り注ぐ太陽の光は目に毒だったが、ようやく戻ってこれた、という達成感もあって、私は、うーんと大きく背伸びをした。
そうして、目の前に広がっている、何とも不思議で美しい光景に、目を奪われ、言葉を失っていた。
「エトワール以外、誰がやるのさ」
「でも、信じられなくて……聖女の力って凄い」
自分が聖女でも、その力を思い知ったというか、改めて実感した気がして、この力を悪用してはいけないんだなって言うのも強く感じた。だからこそ、エトワール・ヴィアラッテアが、この力を利用しようとしているのなら、止めなければならないとも。
それにしても、一面に広がる花畑は、奈落と同じで、そうして、大きな穴には湖が出来ていて、絵に描いたようなオアシスが広がっていた。確かに、地面はまだ砂ばかりだけど、あちこちにコケらしきものが生えていたり、何処からか、鳥の鳴き声が聞えたりして、何というか、来たときよりも暑さが和らいだような気がした。何というか、その、聖女の魔力によって息を吹き返した土地、というような感じ。
北の洞くつもそうだったけど、息を吹き返した土地、人が開拓できるように復興した土地というのは、美しく見える。でも、人工物でこれから溢れていくと思うと、何だかなあとは思っちゃうんだけど。
(でも、前世みたいなビルが建ち並ぶわけじゃないし、景観はそこまで崩さないわよね)
多分、私が此の世界で死ぬまでに、ビルなんて建物立たないだろうし、そもそも、魔法で何でも作ろうと思えば作れちゃう世の中なんだから、もし、ビルの作り方を知っている人がいたら、作り出すかも知れない。そうは思ってみたが、此の世界にビル、というのは何だかあわない気がして、笑えてくる。あと、多分だけど、魔法が便利すぎて、他のものがいらないって考えているのかも知れないと思った。
魔法は、便利だけど、そもそもに、危険なものだし、使い方は、一応注意はしているんだろうなって言うのは分かるんだけどね。
(けど、凄すぎる……)
自分でやった自覚はなくても、貴方がやりましたって二人から言われているせいもあって、自分がやったんだと、じわじわと、実感してきた。私が、ここ一帯をお花畑に、オアシスに変えたって。それは、もう凄いことなんじゃないかと、聖女だって言い切れるんじゃないかと思った。これなら、信じてもらえるんじゃないかって、希望も見えてきて、私は、少しだけ嬉しかった。
ここまでやっちゃえば、きっと、信じてもらえるよね。と、ここまでやっても、信じないなら、それはもう、その人の性格だ、と私は思った。けれど、その可能性だって、十分あり得るわけで、皆、私の事を、敵視しているのは変わりなくて。
(何で信じたくないんだろう……)
そう不思議だった。ずっとずっと不思議なこと。何で皆、私が聖女じゃないって今になっても信じてくれないのだろうって。考えても仕方がないことかも知れないけど、それでも、気になって仕方なくて。
「エトワール、まーた暗い顔になってる」
「わっ、吃驚した……ラヴィ。何よ」
「何って、暗い顔しているから、励まそうと思って」
「励ませると思ってんの?」
何について、傷ついているかなんて、分からないでしょう、と私が見れば、何故か彼が傷ついたように、肩をすくめた。傷付けるつもりも何もなかったんだけど、それでも、そんな顔されてしまうと、こちらが悪いんじゃないかって気になってしまうのだ。
「前もいったけど、俺は、エトワールの味方だからね」
「分かってるわよ。それは信じてる」
「じゃあ、何が信じれないの?」
と、ラヴァインは、私に質問をしてきた。何が信じられないのか。何も信じられない。信じたものしか信じない。誰に、どんな風に感情や信頼を置くかは、その人のやってきたことに限る。ラヴァインのことを信じていないわけじゃないけれど。
「何で、皇帝陛下は、私の事聖女だって信じてくれないんだろうって思って」
「さあ、あの人、性格悪いから」
「あったことあるの?」
「ううん、あったことはないよ。でも、性格悪いって言うのは聞いたことある。でも、力はある皇帝だからねえ。それなりに支持あるんだよ。ラスター帝国が強豪国だって、軍事国家だって言われるのは、その皇帝のおかげ」
そう、ラヴァインは、興味ないように言う。けれど、その言い方が何処かトゲトゲしていて、あまりいいように思っていないんだろうなって言うのはすぐにでも分かった。
グランツの方をちらりと見れば、グランツも、皇帝陛下に関しては、あまり良い思い出がないようで、苦しげな顔をしている。
そんな、皇帝陛下は、リースのお父さんに当たるわけで、でも、リースも皇帝陛下のことが嫌いっていっていたから、もしかしたら探せば、皇帝陛下が嫌いっていう人が多いのかも知れない。けれど、政権とか国がひっくり返されないのは、なんやかの力が働いていそうだなってのも思う。難しい話。
「グランツも、皇帝陛下のこと……その、苦手とか思ったりする?」
「声を大にしては言えないのですが」
「あっ、そっかごめん」
「今の皇帝陛下は、排除しようと思った対象を排除する、そんな人間です。徹底的なんです。一度、決めつけたものは曲げない、強い意思があるので、そこは良いところでもあり、悪いところとも思っています。そして、魔法を嫌っています」
「へ?」
思わず、変な声が出た。何処から、出たと言われても、何処から出たか分からないような声。まあ、それは良いとして、皇帝陛下が、魔法を嫌いっているという吃驚な言葉に、私はそれ以上声でなかった。ラヴァインの態度を見る限り、それは本当のようで、皇帝陛下は、魔法を嫌っていると。
(じゃあ、そもそも聖女なんて大嫌いじゃん)
ブライトに厳しいのも、持ちしたら魔力が凄いから? 魔力のある貴族は徹底的に嫌っていると言うことなら、ラヴァインやアルベドの家はさぞ嫌われているだろうなって思う。何となく、辻褄が合うし、もしかしたらっていう色んな可能性も出来てた。
リースが、あまり魔法を使わないのっていうのもそれに関わってきそうだなあ、なんて私は思いながら、グランツを再度見た。彼は、これ以上は何もないというように首を横に振る。
まあ、こんなこと言っているってバレたら、打ち首かも知れない。
政権ってそういうものだよね、と何処か半場諦めつつ、私は自分にのしかかっているもの、向けられている視線がすぐには変わりそうにないなって言う絶望をひしひしと感じていた。変わらないかも知れない、無駄かも知れないと。でも、このオアシスが出来たこと、大サソリを倒せたこと。それが、誰かにとって希望になったり、ここに住んだり、そんな感じに広がってくれればいいなとも思った。
やった事が全て無駄になるなんてこと無いと思って。
「無駄じゃないよね」
「無駄じゃないよ」
「待って、今、口に出てた!?」
私の声を拾われて、バッと、ラヴァインを見れば、彼はにこりと微笑んでいた。恥ずかしい。心の中で思っていれば、かっこ世かKッたけど、口に出してしまったらそれはダサいだけなんじゃないかと思ってしまった。
本当に反省。
「今の、聞かなかったことにして」
「何で?」
「恥ずかしいから……」
「エトワールにも恥ずかしいって言う感情あるんだ」
「ないと思ったの!?てか、人間誰しも持ってるわよ。恥ずかしいって感情。てか、私の事なんだと思ってるの、本当に」
ちょっと勢い余って、胸倉を掴めば、降参だよ、といわんばかりに、ラヴァインは両手を挙げた。それで、許して貰えると思うなよ、と睨み付ければ、ラヴァインはプッと吹き出して笑った。
「君といると、本当に飽きないね」
「飽きても良いし。別に気にしてないから。アンタの興味はいらないから」
「ええ?そう?俺は、エトワールに興味しかないんだけどもっと、近くで見ていたいなって思うよ」
「口説いてる?」
「どうだろう?」
「私、恋人いるからね。これ、グランツにもいってるから」
「……っ」
まさか、自分に飛び火すると思っていなかったのか、グランツは大きく肩を上下させた。図星。そういう目で見ていることは分かっている。叶わない恋はさっさと捨てるべきだって思っちゃうけど、彼が捨てられないのなら仕方がない。それ以上は言うつもりはないし。
ラヴァインは「残念」なんて、わかりきったことを聞いて、少しだけ寂しそうなかおをしていた。寂しいって言う感情がその場に漂っている気がして、思わず視線を逸らす。
私は、今どうなっているか分からない恋人を心配することしか出来なくて、生きているだろうって思っているけど、もし……と考えたら辛くて。
さっきまで、そんなこと考えてもいなかったというか、頭から完全に抜け落ちていたわけだけど、考えたらゾッと下。今すぐに帰らなきゃって言う気持ちになる。
現状確認は出来たし、色んな話しも出来たし、何で悪魔召喚が危険なのか理解が出来たから、いいとしよう。
「ラヴィ、グランツ、帰ろう」
私は彼らに声をかけた。帰る頃には、日が沈んでいるだろうけど、それまでには、この砂漠を抜け出すことは出来るだろうし。
たいして、収穫はなかったけれど、真実の聖杯さえ手に入ってしまえば、証言はできる訳で。けど、嫌な胸騒ぎもして。
(ううん、考えちゃダメよ)
もやっと、漂ってしまった嫌な空気を払うように私は真実の聖杯を握る。キラリと、真実の聖杯から、何かが零れるような、漏れるような音がした。けれど、私はそれに気づかず、一歩踏み出し、太陽を背中に歩き出した。