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帝王病院
ー 消化器外科病棟・ナースステーション ー
「…ということで、この度 陣ノ緑さんに、消化器外科の看護師長を引き継いでいただくことになりました。皆さん、よろしくお願いいたします」
「何かと不慣れな点も多いと思いますが、どうぞよろしくお願いします」
看護師長の言葉を受け、隣りに立つ緑が 看護師達に向かって頭を下げた。
「よろしくお願いします」
看護師らも皆、緑に頭を下げた。
「じゃあ陣ノさん、早速だけど よろしくね」
元の看護師長はそう言い、ナースステーションを後にした。
「はい」
緑は元 看護師長の背中に向かって頭を下げた。
今日から看護師長。
看護師として、自分が消化器外科全般の仕事を仕切る立場だ。
そう考えると、緑は身が引き締まる思いがした。
この半年間 ただひたすら仕事に没頭する傍らで 地道にコツコツと、医療を学び直しながら日々を過ごしてきた。結果、努力は報われた。
これからは 母にも、もっといい暮らしをさせてあげられる。小さい頃からずっと育ててきてくれた 恩返しができる…そう思うと、緑は嬉しかった。
ー町浦病院ー
築数十年経つ 古びた小さな病院の外科医として、陸斗は働いていた。
帝王病院を辞め 青井クリニックの後継者になる夢は叶わなかった。以前に比べ、収入もグッと少なくなった。でも、地元の医療に貢献して生きていくのも悪くはない…陸斗は最近になって、ようやくそう感じられるようになってきた。
数名の医師しかいない医局で、陸斗はカルテの見直しをした。
「…よし、間違いはなさそうだな」
陸斗は独り言を呟いた。
「香坂先生、まだいらっしゃいますか?」
後方から、同じ科の医師が 陸斗に声をかけた。
「あ、いえ。そろそろ帰るところです」
陸斗はカルテを閉じた。
帰る先は、実家だ。
時折、なにやら無性に焦燥感に駆られる日があるが 確かに徹が言っていたように、今の陸斗には 実家が救いになっている。
そして何より 妻の瀬里香と、愛しい娘 莉亜の存在が、陸斗の心の支えだ。
実家で待つ家族のために、陸斗は今 働いている。
家族に潤った生活をして貰うため 少しでも足しになれば、と。
数年前の陸斗には、まるで無かった想いだ。
陸斗は変った。
厄介な、あの癖を除いては…。
コメント
1件
ああ、第70話、読み終わりました…! 緑さんが看護師長に昇進したんですね。努力が報われて本当によかった。母への恩返しを思うシーン、じんわりきました。一方の陸斗さん、町浦病院で家族のために働く姿に、あの頃の彼からは考えられない変化があって、胸が熱くなりました。最後の「厄介な、あの癖を除いては…」が不穏で、続きが気になります!