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悲しい夢でした。
あんなにも楽しそうに笑い合っていた神々が、
一人、また一人と去っていくのです。
引き止めようとしても、誰も振り返らない。
目を覚ますと、シャチトルは頬を伝う一筋の涙に気づいた。
「……夢。」
だが、その悲しみだけは、現実のように胸へ残っていた。
身支度を整え、玉座へ座る。
やがてイモホテップが静かに現れ、朝の挨拶を捧げた。
(もう……限界だ。)
シャチトルは静かに息を吸い、覚悟を決めた。
「イモホテップ……話しておきたいことがあります。」
イモホテップは静かにうなずき、控えていた女官たちを下がらせた。
二人きりになる。
「神託は……。」
シャチトルは唇を震わせた。
「もう、ないの。」
「神々は……いなくなってしまった。」
「女王になった、あの日から。」
「黙っていて、ごめんなさい。」
イモホテップは何も言わなかった。
ただ目を見開いたまま、静かに涙を流していた。
やがて、かすれた声で答える。
「……知っておりました。」
「えっ……?」
「私もラーの血を受け継ぐ神官です。」
「古き書には、神々が獣の姿となって人へ神託を授けたなど、一行も記されておりません。」
「では……なぜ。」
イモホテップは少しだけ微笑んだ。
「なぜでしょうな。」
「あのように神々が笑い、人と語らい、共に暮らす世界が……。」
「本当にあればよいと。」
「私も、そう願ってしまったのでしょう。」
「あのバカ将軍は、気づいてはいなかったでしょうが。」
イモホテップは静かに笑った。
「イスカンダルへ戻れば、バルカを呼び戻すつもりでした。」
「もし私が、この戦で命を落とすことになっても。」
「最期は、アントンのそばで迎えたいわ。」
シャチトルは小さく首を振る。
「そんなことは、させません。」
そして俯き、ぽつりと続けた。
「私が後悔していることは……。」
「あなたを、
この血に飢えた狼たちがうごめく政治の世界へ巻き込んでしまったこと。」
「国を守るためとはいえ、あなたに政略結婚をさせ……。」
「そして今、この戦争の責任まで背負わせようとしている。」
「私は……。」
「あなたに、本当にむごいことをしてしまいました。」
「いいえ。」
シャチトルは静かに首を振った。
「私は幸せよ。」
「アントンは……本当に私を愛してくれているわ。」
「この戦争が終われば、また平和な日々が訪れる。」
「きっと、そうなるわ。」
イモホテップは深くうなずいた。
「そうですな。」
「さあ、涙をお拭きください。」
「アントン殿がお呼びですぞ。」
シャチトルは涙をぬぐい、小さく笑った。
イモホテップもまた、その笑顔を見つめながら静かに覚悟を決める。
(花の盛りの乙女に、なんと過酷な運命を背負わせてしまったことか。)
(ならば最期まで……)
アンゴラ湾要塞の評定室には、重い空気が漂っていた。
その静寂を破るように、アントンが立ち上がる。
「海戦で敵に痛撃を与える。」
開口一番、その一言だった。
諸将の視線が一斉に彼へ集まる。
バルブスはすでに去り、評定の席にはシャチトルとイモホテップも並んでいた。
情報参謀プラスが一歩前へ進み出る。
「現在確認されている限り、ライナー王の借財は百億ディナールを超えております。」
静かな口調だった。
「金を失った軍隊がどうなるか――皆様もご存じのことでしょう。」
室内に小さな笑みが広がる。
プラスは続けた。
「一方、シャチトル殿が今回ご用意くださった戦費は、二百億ディナールを優に超えます。」
「我々は、あと一歩のところまで勝利を手繰り寄せております。」
続いて作戦参謀デリウスが地図を広げた。
「南方からの補給船を失ったことは痛手です。」
彼はアンゴラ湾を指し示す。
「しかし、この要塞には十分な備蓄があります。容易に陥落することはありません。」
さらに指をイージプ本国へ移した。
「加えて、本国には無傷の十万の兵が控えております。」
「全体を見れば、国力は依然として我々が圧倒しております。」
アントンは静かに右手を上げ、デリウスの言葉を制した。
「もうよい。」
評定室は静まり返る。
アントンは地図の前へ歩み寄り、ゆっくりと諸将を見渡した。
「ガイロ。」
「はっ。」
「水夫の足りぬ大型船はすべて破棄せよ。」
「シャチトル殿が近隣から小型船、高速船を集めてくださった。」
「それらで艦隊を再編し、決戦の準備を急げ。」
「承知いたしました。」
「カニデス。」
「はっ。」
「信用ならぬ兵は解散させ、この要塞を死守せよ。」
「私が海戦を終えた後、イスカンダルへ帰還し、兵を再編する。」
「必ず、この地へ戻ってくる。」
その声には、一切の迷いがなかった。
「今度の海戦は、私が先頭に立つ。」
「右翼をガイロ。」
「左翼を私が率いる。」
「中央後陣は、シャチトル殿とイモホテップ殿に任せる。」
「大型船で敵を引きつけ、その間に高速船で側面へ回り込む。」
作戦は明快だった。
そして最後に、アントンは力強く拳を握る。
「よいか!」
その声が石造りの評定室へ響き渡る。
「我々は栄光ある第十軍団の流れをくむ、グラン最強の軍団だ!」
「必ず勝つ!」
そう言って、アントンはシャチトルへ視線を向けた。
シャチトルは微笑み、小さくうなずく。
その笑顔を見た諸将の顔にも、再び闘志が宿った。
「おおっ!」
歓声が評定室を揺らす。
誰もが思った。
かつて世界を震わせた英雄が、戻ってきたのだと。
敗北の灰を払い、英雄は再び翼を広げようとしていた。
コメント
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第41話「不死鳥」、読み終えました。シャチトルが神託の秘密を打ち明けるシーン、胸が締め付けられました…。長い間一人で抱えていた重荷を、イモホテップにだけは話せたこと、そして彼が「知っておりました」と静かに受け止めたやり取りが、本当に美しくて切なかったです。アントンが再び陣頭に立つ覚悟を見せた終盤は、タイトル通り不死鳥の再生を感じさせて、鳥肌が立ちました。続きが気になります!