テラーノベル
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侑からコーヒーの入ったマグカップを受け取り、瑠衣は両手で包みながら一口含んだ。
昨夜、ここへ来た時に淹れてくれたコーヒー同様、優しい甘さで涙が零れそうになってしまう。
「九條。コーヒー飲んだら買い出しに行くぞ」
「……はい」
彼が淹れてくれたコーヒーを、じっくりと味わい、最後の一口を飲み終わる頃には、すっかり冷めていた。
ソファーから立ち上がり、カップをキッチンに持っていき、洗ってカゴに入れる。
支度をするためにリビングへ戻ると、ネイビーブルーのクルーネックニットにベージュのスキニーチノを合わせている彼は、ソファーで鷹揚な様子で脚を組み、スマホを見ている。
(こんな状況でこんな事を考えるのは良くない事だけど……先生……カッコいいな……。面と向かって本人には言えないけど)
思わず立ち止まって見入ってしまいそうになってしまうが、まずは自分の身支度を整える事だ。
「支度してきます」
「…………分かった」
階段を上り、身だしなみを整えると、これも間に合わせで購入したブラックのVネックニットと同色のスキニーを着て、白いフード付きのショートコートを羽織った。
リビングへ戻ると、彼はまだスマホの画面と戯れているようだった。
「お待たせして、申し訳ありません」
つい、娼館にいた時の癖が出てしまい、彼がチラリと瑠衣を見やると、苦笑いしながら立ち上がった。
「…………ここは娼館ではない。普通に話せ」
「…………タメ口でもいい……って事ですか?」
瑠衣の言葉に彼は眉根に皺を刻み、ジロリと瑠衣を睨む。
「…………好きにしろ。行くぞ」
侑の背中を追い、二人は東新宿の自宅を出発した。
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