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侑が連れてきたのは、立川の大型ショッピングモール。
瑠衣がここに来たのは、大学の卒業式の後、学友とショッピングやお茶しに立ち寄って以来。
あの日の事を思い出すと、今でも胸が苦しくなるが、まずは買い物、とモール内を歩き回った。
瑠衣の服や下着類を更に購入し、食器やカトラリー、バス用品やシャンプー、基礎化粧品やメイク用品、ボディケアなど、意外にも必要な物が多くあり、色々見て回る瑠衣に侑は呆気に取られている。
おおよその買い物が終わると、購入した物を一度駐車場に戻って車に積み込み、二人はベーカリーカフェで遅いランチを摂った。
コーヒーとクロワッサン、ハムとレタスのサンドウィッチを食べながら、彼がポツリと零した。
「…………女も大変だな」
「…………何が……ですか?」
コーヒーとクロックムッシュを食べながら、瑠衣は彼に聞き返す。
「いや、女は外見に色々と気を遣わないとならんのか、と思ったまでだ」
「……どうなんでしょう? 元々そういうのは疎い方なので、よく分からないですけ……ど……。あの娼館にいた時は、磨かざるを得ないって感じ……だったし……」
瑠衣は、食べ掛けのクロックムッシュをじっと見つめたまま固まっている。
目の前の侑が、珍しく穏やかな表情を向けていて、不謹慎とは思いつつ、何だかドキドキしてしまう。
コーヒーを飲んでいる姿でさえサマになっていて、ああ、この人が好きなんだ、と瑠衣は思うし、侑が彼女の大変な状況を知って家に置いてくれる事が何よりもありがたい。
(先生にはこの気持ちは言えないけど、想っているだけなら……いいよね……)
そんな想いをよそに、彼が立ち上がる。
「さて、そろそろ出るか」
「……はい。ご馳走様…………でした」
伝票を掴み、侑が会計済ませている間に、瑠衣は店の外を出ると、通路を挟んだ向かい側に楽器店があるのに気付く。
「あ…………」
多摩地区でも有名な楽器店『中倉楽器』の文字が見えた。