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由天。
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第5話 延滞
朝の支度が、
遅れる。
結城の髪は、
整えないまま外に出る。
襟元が曲がっている。
店へ向かう道を、
一度だけ考えて、
やめる。
今日は、
違う日だと、
自分に言う。
部屋は、
開かない。
鍵は回る。
音はある。
それだけ。
彼女はいない。
床に影もない。
結城は、
扉を閉め、
その前に立たない。
代わりに、
通りへ出る。
音が増える。
昨日より、
少しだけ多い。
仮の呼び名で呼ばれる回数が、
増える。
結城は、
返事を省く。
笑わない。
昼。
携帯を見る。
数字が一つ増えている。
意味は分かる。
分かるまま、
画面を伏せる。
夕方。
アパートの階段を、
上らない。
見上げるだけで、
足が止まる。
彼女の姿は、
浮かばない。
浮かばないことに、
慣れ始めている。
夜。
机に置いた紙。
名前の欄は、
空のまま。
書こうとして、
手が止まる。
ペンが軽い。
結城は、
指先を握る。
店の位置を、
思い出そうとして、
途中で途切れる。
道順が、
一つ欠ける。
延ばすことが、
特別ではなくなる。
会えない日が、
日付に溶ける。
結城の背中は、
少し丸くなる。
行けなくなる兆しは、
音もなく、
もう始まっている。