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テラーノベルの小説コンテスト 第3回テノコン 2024年7月1日〜9月30日まで
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「あくまで統計上だけど、レス夫婦自体、どちらかか両方がその現状に不満を持っている場合がほとんどらしいの。つまり、円満な家庭じゃないってことね。それは、子供にかなりストレスを与えるらしくて」

さなえにとって酷なことを聞かせていると、わかっている。けれど、夫婦が戸惑い、諦めてしまう間に子供は成長し、家庭の在り方を感じ取ってしまう。

もちろん、大斗くんがそうなると決めつけるわけではない。

ただ、レス夫婦は不妊になりがちとの調査結果もある。

「けど、さなえと大和の場合は、きっかけが掴めないだけでしょう? 気持ちが冷めたわけじゃないんだから」

「そうだよ! さなえが家事と育児と仕事の手伝いに追われて遊ぶ暇もないって心配してるくらいなんだから、大和はさなえを大事に想ってるよ」

「……どうかな」と、さなえが不安そうに呟いた。

「お洒落どころか化粧もろくにしない私には、そんな気になれないのかもしれない……」

「じゃあ、その気にさせたらいいじゃない」

「どうやって?」

千尋がスマホを弄りだす。

「たとえば――」

私たち三人は、その言葉の続きを待った。

「あった! んーっと、今からなら――」

更に、続きを待つ。

「一時間後でいいかな」

「何が?」と、麻衣が待ちきれずに聞いた。

「美容室。カットとトリートメントを予約したから、早く食べちゃお」

なるほど。

身だしなみを整える第一歩として、美容室というわけか。

「じゃ、お先に取りに行くね」

私はさっさと立ち上がり、千尋に目配せをした。

「私も」と、千尋も席を立つ。

「帰りが遅くなるって、大和にメッセ送っといた方が良さそうね」

「ん。大斗くんには悪いけど、今日は徹底的に磨かせてもらお」

「ね、千尋」

麻衣が背後に立っていた。

見ると、さなえはテーブルで飲み物を飲んでいる。

「美容室の近くに、ネイル出来るところない?」

「ネイル?」

「うん。さなえ、昔はネイル好きだったじゃない。今は爪が短くても可愛くしてもらえるみたいだし」

「それ、いいね」

当のさなえを置き去りにして、私たちは勝手に美容室の後でネイルの予約も入れた。

私は大和に『さなえの帰りが遅くなります。今日中には帰すから』とメッセージを送った。

すぐさま『晩飯は?』と返事がきた。

私はそのメッセージを既読スルーした。

「寝室が別なのって、悪いことばっかりじゃないみたいよ?」と、私は大皿一杯のスイーツを眺めながら、言った。


どれから食べようかな。


さすが、人気のホテルビュッフェなだけあって、スイーツも充実している。

十種類のミニケーキにアイス、ワッフル、ゼリー、プリン、白玉団子にわらび餅、など。

私はミニケーキを全種類、麻衣はワッフルにアイスと生クリームとチョコソースをトッピングして、千尋はフルーツポンチに白玉を入れて、さなえはゼリーとプリンを三つずつ盛って来た。

「寝室が一緒ってことは、子供も一緒の場合が多いじゃない? そうすると、さすがに眠ってる子供の隣ではスル気になれなくて、レスが長引くの。けど、子供とは別に部屋があれば、場所の心配はないでしょ?」

「なるほどね」

「さなえの場合は、大斗くんを寝かしつけた後で大和の部屋に行けばいいのよ。いきなりは気まずいだろうから、まずは話があるとか何とか言って、二人きりの時間を作ったら?」

「……」

さなえが難しい顔をする。

「さなえ?」

「最近……、家で二人で話すことなんて滅多になくて……。だから、わざわざ部屋に行ってまで、何を話したらいいかわかんない……」

中学生か、と突っ込みたくなる。

この二人がレスな理由がわからない。

こういう夫婦が、じゃんじゃん子供を作るべきなのだ。私のような女の代わりに。

「それに! 大和にソノ気がなかったら? 毎日仕事で疲れてるし、大した用でもないのに押しかけて、迷惑がられたら……」

「そんなこと言ってたら――」

「じゃあ! 大和にソノ気があるってわかったら、頑張れる?」と、麻衣が聞いた。

「大和もさなえとの時間を持ちたいと思ってるのがわかったら、勇気を出して部屋に行く?」

少し考えて、さなえが頷いた。

「けど、そんなことどうやって知るの?」

「龍也か陸から探りを入れてもらう?」

「回りくどくない?」

「匂い……とか?」

麻衣の言葉に、一斉に注目した。

「匂い?」

自分で言っておきながら、麻衣はとても言いにくそうに、俯きがちに言った。

「大和の部屋にさなえの服とか置いておくの。興味がなければ、すぐにさなえのとこに持って行くよね? けど、興味があったら――」

「あったら……?」

「その……、さなえを想像するのに、使った……り?」


……。


麻衣の口からそんなことを聞くとは思わず、目をパチクリさせてしまった。


想像して使うって、つまり――。


「抜くのに使うってこと?」

「千尋!」

ストレートな表現に、私は思わず千尋の口を手で覆った。

幸い、他の客には聞こえていなかったよう。

さなえは思いっきり顔を赤らめて、俯いてしまった。

「わかんないよ? わかんないけど、男の人って……そうなのかも?」

千尋が私の手を払い除ける。

「それは、麻衣の経験?」

「経験……っていうか……」

「鶴本くんに言われたの?」

「言われた……というか……」

「もうっ! ハッキリ言っちゃいなさい」

千尋の一声に、麻衣は覚悟を決めたよう。

「鶴本くんが……私の匂いのついたものがあったら、いい夢見れそうだって……言ってた……か……ら……」

「例えば?」

「え?」

「鶴本くんに麻衣の服が欲しいって言われたの?」

麻衣が首を振る。

「じゃあ、なに?」と、千尋の猛攻は止まらない。

「シー……――」

「なに?」

「シーツ!」

「はっ!? 麻衣のシーツが欲しいって言ったの? そんなん、使い道は――」

「千尋! 声がデカい!」

そばにいた店員さんにジロリと見られた。他の客には聞こえてなくて良かった。

「一昨日、鶴本くん家に泊まったの。シてないよ!? ――けど、シーツは洗っちゃダメだって言われて――」

「使うから?」

「――じゃなくて!」

「ああ。『いい夢』を見れそうだから、だっけ?」

麻衣が頷く。

私は、言葉がなかった。

なぜなら、憶えがあるから。

私が泊まった翌日、龍也もシーツを洗うのを拒んだ。ムキになって。


まさか、そういうことの為だったの――?


急に、恥ずかしくなった。

散々セックスしているくせに、龍也が一人の時に、私を想って自分を慰めているのだと思うと、恥ずかしくて堪らなくなった。

いや、でも、そうとは限らない。

単に、洗濯なんて面倒なことをさせまいとしただけかもしれない。

きっと、そうだ。

そう思いたいのに、頭の中では、龍也があのシーツを抱いてシてる姿を想像してしまう。


これじゃ、私の方が変態じゃない――!


「まあ、確かに『いい夢』だよね」

「そうは言うけど!」と、辛辣な物言いの千尋に、麻衣が反撃を始めた。

「千尋はないの? 寂しい時とか、好きな人の服を抱き締めて眠ったりしちゃうこと!」

「……」

千尋が黙る。


あるんだ……。


「試してみる価値はあるかも……ね?」

千尋は、不倫相手に本気になりつつあるのだと思う。

こんなに長く続いた相手はいない。

いつもは、本当に慰めるだけの一晩限り。

なのに、今回は一年は続いている。

「とりあえず、やってみよう! さなえ」

「けど、反応なかったら?」

「それは、その時に考えよ? 美容室に行ってさっぱりしてさ、普段着てるパーカーとかカーディガンとか、うっかり忘れちゃったみたいに置いとくの。次の日にはわかるじゃない? 大和がそれに触れたのか」と、麻衣が言った。

「それか、『パーカー置き忘れた』とか言って、大和の部屋に行っちゃえば? で、くっだらない話でもしてさ」と、私。

「そうそう」と、千尋が頷く。

「ま、とりあえず! 美容室行って、さっぱりしよ。それだけで、気分も変わるよ」

三時間後。

私たちの作戦は、早くも半分が成功した。

あきらが送ったメッセージに既読が付くや否や、有り得ない速さで大和がさなえを迎えに来た。


案外、忘年会では二人目報告とかあったり!?


きっと、麻衣と千尋もそう思ったはず。

車に乗り込むさなえは、嬉しそうだった。

車を見送った私たち三人は、一仕事を終えた安堵と達成感でいっぱいだった。

何となく、三人してスマホを見て、それから、解散した。

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