「やり合うにしてもどうやってこの人倒すのさ!?数では私ら勝ってるけど実力でいえばだいぶ負けてるよ!?」
「前衛を任せることの出来ないアンタと今ひとつ火力の足りない私じゃ確かにしんどいわね。でも、逃げることも出来ないしやるだけやるわよ。」
「絶対ここで私負けてこの人の贄になるんだぁ……。」
(私の職業は守護者。いくつかある型の中で私は攻撃に寄せた装備にしてるがそれでも火力は戦士や剣士と比べると劣ってしまう。それを何とかカバーするために多少の魔法とスキルの組み合わせを考えていまここに立ってる。さっきは風の防壁を使ったことで逃がしたがもう同じ轍は踏まない。壁として使うのではなく槍斧に風を纏わせ火力をあげる。ベルノは素早さがずば抜けてたかい事は既に情報として仕入れている。あの子の連撃さえいなせれば後ろのミーシャを殺るのは容易いこと…。)
「【アタックボアの笛】召喚【三匹の銀狼】数で囲めばあんたも苦しいだろ!」
「学んでないのね?私には風の防壁を作り出せるのよ!」
槍斧をクルッと宙で回した後【荒れ狂う風之舞】を発動し瞬時に銀狼を消し去りその後風の範囲を広げ時間差でやってくるアタックボアまでも対処してしまう。
「くぁぁ!?」
「あの防壁攻撃に転ずることも出来るのか!?」
「けど、カールマから離れれば離れるほど風自体の火力は下がってるみたいだよ!」
「それでも円状に放ってくるのは厄介だな。せっかくの森林エリアが台無しだ。」
「木々を失えばベルノの速さを生かしたアクロバティックな攻撃に私を欺いてくれた【トラップアップ】とか言う時間差での魔法も簡単には使えないだろ?」
「なるほど?意地でも真っ向勝負に持って行って自分のフィールドでやろうってのか。むしろそのフィールドで私らが戦って勝ったらあんたのプライドへし折れそうだし受けて立つ!」
「動機が圧倒的にクソなのはデフォなのね」
「とりあえず更地にされてからの行動をどうするかって言うのだけど、基本戦術は変えない方針で行くぞ。」
「また私がこき使われるんですね分かりません。」
「風の防壁は範囲が大きい分消費するMPもデカイと思われるから、それを連発させて枯渇したところを数と私の一撃で吹き飛ばす。」
「その前に多分私の方が先に底尽きるかも」
「その場合はお前一人で突っ込んでくれ。」
「人の心とかないんか?」
「道徳の教科書なんて薪として焚べたわ。」
「oh…。」
(会った時から感じてたけどこの二人なんだかんだ言ってバランスが取れてると思う。まだお互いに成長途中が故にでこぼこコンビになってるけど、例えばミーシャがMPの底上げに成功したり扱える魔法が増えたり、そういうことが起きただけで脅威になり得る。それを危惧して森を”なかったこと”にしたんだけれど、逆にそれはそれで不味かったか?
ミーシャには私を煽った時に使った土の壁を生やす技が存在する。つまり意図的に自分のタイミングで遮蔽を生み出せるということ。そしてその使い方は汎用性が高いこともある。今話した通り遮蔽物として扱えることもそうだが視界を塞ぐことだって可能になるわけだ。一瞬でも視界を塞がれては動きに鈍りがどうしても生じてしまう。その隙を突かれてベルノの一撃が入ってしまう。そして一回目の戦闘時にやられた通りあの土の壁は防御壁としても活躍する。もちろんそれはこちらの攻撃の威力が高ければ関係なしに攻撃は出来るが土の壁を挟むため威力は減衰してしまう、これもまた厄介だ。
私の知る魔法使いなんて大技をドカドカ撃ってMP切らしてるイメージしかないが、この子はそれとは違う。土の壁とか時間差による攻撃とかとにかく小癪な手をいくつも用意してるくせしてちゃんとMP管理をして大技も撃てる瞬間があれば構えてる…。やっぱり真っ先にやるのは彼女か!)
……なーんて考えてるだろうからベルノにはとにかく私を守ってもらわないとね。《魔力感知》を使ったところこの場所に集まる人が増えてきてる。十中八九漁夫の利を狙ってる奴らだろうけどその中でも一つだけの反応が他と違い様子見ではなく迷うことなくこちらに向かってる何者かがいる。しかもそいつ道中の他プレイヤーをなぎ倒しながらやってきてるから実力は確かな人物だ。ソイツがここにこれば三つ巴の戦闘になる可能性が極めて高いからそうなればこっちにもワンチャンがある。私だけを狙う隙が無くなるわけだからな。とにかく今はその化け物が来るまで耐えてもらおう、ベルノくんに。