「今度はいつ会える?」
「……………しばらく無理かな」
父と子の再会を果たしてから亮平と翔太の間に距離が生まれて少し経つ。
まるでタブーになってしまったように、親子の間であの夜以来、岩本の話は交わされることはなかった。
翔太は、ベッド脇に脱いであった服を身に付けると、後ろを振り返り、愛しげに彼を見上げる男を見下ろした。
岩本との再会は、翔太にとって計算外だった。そして、この男との再会も。
3か月ほど前。
男は、自身の昇進祝いの流れで翔太の店にやって来た。そして翔太がテーブルに付くと、まじまじと彼を見、驚いたように口を開く。
『翔太?』
『え?………もしかして、涼太?』
テーブルの中央で皆に歓待されていたのは、紛れもない、幼馴染の宮舘涼太だった。
二人は暫し見つめ合った後で、不思議そうにしていた周りの同僚やキャストに彼らが幼馴染であることを明かした。15年以上、音信不通だった相手と、こうしてまた再会するなんてと、翔太は驚きを隠せない。そして、おそらく、その想いは、目の前で翔太に相対する宮舘にとっても同じだった。
翔太と宮舘は、奇遇にも産院が同じだという生まれながらの幼馴染だ。それから小中高、そして大学まで二人はずっと一緒だった。彼らは18年もの月日、幼馴染かつ親友という深い関係にあった。岩本と翔太が付き合い始めた時も、宮舘は、いつも翔太の相談に乗っていたし、翔太のすぐ近くに寄り添っていたのだった。
宮舘は、驚きつつも、以前のように優しい目をして、翔太を見た。そして、聞き心地のいい柔らかい声で改めて翔太に言う。
『久しぶり。会えて嬉しいよ』
『……おう』
連絡もなしに勝手に消えた決まり悪さもあってか戸惑う翔太を、宮舘は変わらず温かく見ていた。その後、酒が入った軽い雑談になっても、宮舘の、物言わぬ静かな興奮がその場に漂ったままだ。
周囲が旧知の幼馴染に遠慮して、場が早めに解散した後も、二人はカウンターに居残り、思い出話を続けた。
やがて深い時間になり、宮舘が思い切ったように訊く。
『その……噂、聞いた。子供出来たって」
『ああ、うん。……もう中3になる』
『そっか…。照の?』
こくりと頷く翔太を見て、宮舘は頷いた。
『大変だったね』
『まあ、もう、過ぎた苦労は大分忘れたけどな』
グラスを合わせ、おかわりもらうね、と翔太は宮舘の入れてくれたボトルを注ぐ。ウィスキーと炭酸水を割ってグラスをかき混ぜる白くて小さな手に、15年分の苦労が詰まっているのかと思うと、宮舘は何とも言えない気持ちが込み上げてくるのを感じた。
宮舘は翔太のことがずっと好きだった。
長過ぎて、少々拗らせた片想い。
翔太は、これまでの距離間を偶然だと思っているようだが、それは正しくは違う。
高校進学も、大学進学も、宮舘は翔太に合わせるようにして進路を選んできた。出来れば就職も同じところへと考えていたのに、その願いはついに叶わなかった。翔太は18歳の途中で、何の前触れもなしに、彼の目の前から忽然と姿を消したのだ。
その後、宮舘は岩本に頼まれ、自分自身でも同じか、それ以上の情熱を持って、翔太を探した。しかし、どう頑張っても、とうとう手がかりを得ることはできなかった。宮舘の中で、翔太の存在は叶わなかった初恋の思い出として苦く胸の中に残ったまま、歳月だけが経っていった。
就職後、栄転ともいうべき転勤になってから働き始めたこの新しい土地で、思いがけなく翔太と再会してから、宮舘は仕事帰りにこの店に足繁く通うようになった。
裏ぶれたスナック。
それでも店の雰囲気は下品ではなく、椅子やテーブルもさりげなく上質のものを使っている。昔から通う常連に話を聞いてみると、ここはかなり昔からある老舗のスナックで、オーナーはこの土地の名士らしい。目立った観光地らしきものもないこの地に、地元民も旅人も、気安く立ち寄れるようにと作った店だという。価格も良心的で、おそらくオーナーの趣味や道楽でやっている、悪く言えばあまり商売っ気のない店だった。
『翔太、今日終わったら少し時間ある?』
『別にいいけど』
翔太は特に警戒する様子もなく、宮舘の待つ居酒屋へと現れた。テーブルに着くと、翔太の好きだった料理が何品か頼まれている。
『飲み物まだなんだけど、どうする?』
『うーん、じゃ、ビールで』
仕事で飲んだ後だから、てっきりソフトドリンクだと思っていた宮舘は、少し意外に思う。何かあったのだろうか。翔太はそこまで酒に強くない。
二人で取り止めのない会話を交わしてから、宮舘はどきどきしながら訊いた。
『翔太は、今、付き合ってる人とかいるの?』
『……………』
翔太は答えず、酔眼のまま、飲みかけの黄金色のジョッキを見つめていた。そして、寂しそうに話し始めた。
『涼太ぁ、俺、このまま年食って、誰にも愛されないまま死ぬのかなぁ』
『えっ』
宮舘の反応に、翔太は、くっくっ、と自嘲気味に笑う。
『……息子見てると思うんだよね、肌とかツヤツヤで、これからの未来に希望しかなくって。そりゃ多少は悩むこともあるだろうけど、青春真っ只中だろ。少し…いや大分羨ましいな、なーんて』
『翔太はいつまでも綺麗だよ。翔太が誰にも愛されないなんて考えられない』
実際、店の中にいる時の翔太は美しく、男女問わずよく誘われていたし、翔太に参ってるだろう客を何人も見かけた。新参者の自分ですらそう感じるのだから、翔太はやはり人気者なのだろう。
『じゃあ、涼太、もし会社でいい人いたら紹介してよ』
軽口を叩く翔太に、思い切って宮舘は手を挙げた。
『俺じゃ……だめかな?』
一度目を見開いた後で、翔太は言う。
『冗談だろ』
宮舘は首を振った。そして、テーブルの上に無造作に置かれた翔太の手に自分の手を重ねた。
『ずっと好きだった』
その夜、二人は初めて結ばれた。
コメント
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わおびっくりこういう出てき方なの😳😳❤️💙


ゆり組は、やっぱり繋がっていたんですね🥰🥰 ひーくんと、舘様で翔太ママの取り合いになるのかなぁ😱😱