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「あの……その、クラスが『ブルー』だとなんかマズいのかな。俺なんにも知らなくて……」
美作から教えられた俺のクラス。まだ用語の意味さえよく分かっていないというのに、真昼と小夜子のリアクションが大袈裟なので不安になる。
「いいえ。悪いことなどありませんよ。ただ……クラスが『ブルー』に分類される人間は極めて稀なんです。私どもが認知している範囲内ですが、河合様を含めても片手で数えられるほどしか存在していません」
「つまりレアってこと? 血液型でいうとRHマイナスみたいな感じ?」
「とりあえずはそのような認識で構いません。その血液型よりも更に希少ですけどね」
小夜子と真昼が驚いていたのは単純に『ブルー』が珍しいからだったのか。美作の口振りからして、それ以外には特に問題があるわけではなさそうで良かった。
「……『あの人』が縁もゆかりも無い子供の推薦人になったと聞いておかしいとは思っていたけど……」
「私まだ信じられない。いや、疑ってるわけじゃないの。でもまさかこんなことがって……榛名先生はご存知だったのかしら……」
「知らなかったと思う。会合が長引いてる原因って多分これだもの。きっと『あの人』のことだから、美作さんたちのような一部の身内にしか言ってなかったんじゃないの」
小夜子はじとりとした目で美作と百瀬を見やった。彼女に睨まれたふたりは少しだけ気まずそうに視線を傍にそらす。
せっかく安心したのも束の間……相変わらず小夜子と真昼の会話が不穏だった。そもそも彼らの言っている『クラス』というのは何なのか。美作の話だけだと、その分類の中で『ブルー』が特に珍しいということしか分からない。
「あっ! 私たちったら……また先走ってしまってごめんなさい。透……あなたは何も知らなかったんだよね」
再び置いてけぼりを食らっていた俺に、真昼が慌ててフォローに入ろうとする。日雷に着いてからまだそれほど時間は経っていないのだけど、俺の頭の中はすでにいっぱいいっぱいになろうとしていた。今からこんな状態で試験本番を無事に迎えることができるのだろうか。
「美作さん。クラスとレベルについてだけでも、今のうちに説明しておいた方がいいと思う。これから先、嫌ってほど私らみたいな反応を見る事になるんだからさ」
「うん……私も小夜子ちゃんと同じ意見です。驚かれるだけならいいけど、嫌な感じに絡んでくる人も絶対いるだろうしね。『あの人』の推薦ってだけでも注目されてるのに……」
「そうですね……おふたりの仰ることはごもっともです。ご主人様はその辺りの機微に疎いですから……わけもわからず、河合様が居心地の悪い思いをなさるのは不憫ですよね」
美作と百瀬は顔を見合わせて頷いた。そして、俺の方に視線を向ける。何かを決意したかのようなふたりの様子に緊張感が高まった。
やはり『ブルー』というクラスはただ珍しいというだけではなく、それ以外にも特別な意味があるらしい。
「河合様。当初の予定から随分とかけ離れてしまいましたが、今から少しだけ私の話を聞いて貰ってもよろしいでしょうか? あなたが今後、玖路斗学苑で魔法を学ぶに当たって知っておくべき大切なことのひとつでもありますから……」
「……はい。俺も知りたいと思っています。美作さん、よろしくお願いします」
美作の問い掛けに俺は迷わず返事をした。魔道士になるために必要な知識というならば当然である。そして何より自分自身についての事。断る理由なんてなかった。
「まずは、先ほどから何度も会話に出ております『クラス』について説明させて頂きます。クラスは全部で5種類。グレー、イエロー、グリーン、レッド、ブルーです。これらは魔道士が幻獣と契約を結んだ際に差し出すヴィータの『質』を色ごとに分類したものになります」
デザートを食べ終えてひと息ついた所で、美作と百瀬が『クラス』についての解説を始めた。小夜子と真昼の後押しがあってのことだったけど、東野に会うまでこのモヤモヤした気持ちを抱えていたくはなかったので助かった。
「河合様が血液型を例に出しておられましたが、確かに似通った部分はありますね。人間は誰しもヴィータを持って生まれますが、その質や量には個人差があります。魔道士にとって、このヴィータの質を知ることはとても大切なのです」
「その『質』とやらが、俺は『ブルー』に分けられるんだね」
「はい。ヴィータの質の違いは生まれ付いてのものですので、後天的に変化することはありません。普通に生活をするだけなら、どのクラスであろうが関係ありませんが……魔道士はヴィータを対価とし、スティースから魔法を得るのでそういうわけにはいきません」
「大多数の人間のクラスはグレーとイエローになるの。全体を100とした場合の内訳は、グレーが60、イエローが30……あとの10がグリーン、レッド、ブルーって感じね」
美作と百瀬の解説に小夜子も参加してきた。思っていた以上にクラスの内訳が偏っていて驚いた。そして、このクラスの名称はやはりスティースとの契約時に生じる光の色から名付けられたものだそうだ。
「ちなみに、特待生に推薦されるような方のクラスはほぼグリーン、レッド、ブルーです。ここにいらっしゃる八名木さんと更級さんもそれに該当します」
「えーっと……確か、おふたりのプロフィールは……言ってもよろしいんでしたっけ?」
「クラスとレベルは隠しても意味ないから別にいいですよ」
百瀬が自分の鞄から書類の束を取り出した。現時点でクラスが判明している受験者のリストだという。小夜子と真昼に確認して、ふたりから許可が出た内容のみを俺に教えてくれるそうだ。
「クラスについてはもう少し詳しく説明致しますが『レベル』の意味は簡単です。これは個人が持つヴィータの総量を表しています。5段階に分けられていて、数字が大きいほど多くのヴィータを所有していることになります」
「まずは更級さんから……彼女のクラスは『グリーン』、レベルは4。そして八名木さんですが、クラスは『レッド』……レベルは1になっています」
小夜子が置き引き犯を投げ飛ばした時に赤い光を見たので、彼女のクラスがレッドであるのは予想できた。真昼の方はグリーンなのか。レベルはふたりの間で結構差があるんだな。
クラスはヴィータの質の違いだと聞いたが……その違いがスティースと契約をする際にどんな影響をもたらすのだろうか。俺はいつの間にか不安な気持ちを忘れて、美作の話に夢中になっていたのだった。