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現在俺は夢であった医師にもなり、家族にも恵まれ、特別不自由のない生活を送っているが、ただ唯一、後悔があるとしたらあの「瞬間」であった。
あれだけ好きだったのに、天宮さんには好きだっていう気持ちは伝わってつきあったものの、ずっと天宮さんのことが好きだったのに、半年で別れてしまった。
おそらく、あまりにも「おとなしすぎて」天宮さんがつきあっている実感がわかなかったのか、それとも不甲斐ない僕に失望したのか?
そのためにはまず、天宮さんに話しかけられる積極的な「僕」だったら、自信を持つ自分にだったら、と思うと後悔しかなかった。
俺自身が過去に戻って新しい後悔のない過去を作れたら、と非現実的なことも考えてしまう。
それ以上に、何といっても医師になるための学力をつける原動力になったこと、またあの台詞が苦境を乗り越えさせてくれたこと、その感謝を伝えたなければ、と思うようになってきた。
今、子供は中学2年生、俺と同じあのときの中学校に通っている。
そう、まさに子供はあの時の「僕」あの時にあの場所に忘れてきた青春の真っ只中にいた。
くるみ: 「パパ、この問題教えて。」
現在の俺: 「合同ね。 懐かしい。」
現在の俺: 「中学校のときにつきあった女の子にもこうやって教えたことがあるなあ。」
くるみ: 「パパ、きもい。」
妻: 「あなた、つまらないこと言ってないでちゃんと教えて。」
現在の俺: 「はいはい。 まずAB//DCだから、図形に分かるように記載して・・・。」
くるみ: 「・・・」
現在の俺: 「AE=DEでしょ、∠AEB=∠DEFは対頂角だから等しいでしょ。 1辺と角が等しいとことが分かったら・・・・。」
くるみ: 「難しい…」
現在の俺: (あの時もこうやって教えていたのかな?)
部屋にはあの時天宮さんが着ていたと同じ制服がかかっていた。
38年経ってもモデルチェンジせず変わらず、あのときのままだった。
現在の俺: (やっぱりあの頃に戻って、すっきりさせたい)」
子供は次の問題を解いていた。
現在の俺: 「あー、なんだか眠くなってきた・・・」
妻: 「ちゃんと娘に教えてからにしてよ。」
現在の俺: 「眠気さましに星でも見てみようかな?」
眠たそうに、外に出てみると空一面にたくさんの星が澄んだ空に散りばめられていた。
現在の俺: 「あの時もこのくらい星が輝いていたなぁ。」
桜はほとんど葉桜だが、まだ肌寒い4月。
その前の3月にはグリコ森永事件が発生、お菓子が買うにはちょっとした勇気が必要だった時だった。
1年生から2年生に進級するときにはクラス替えがあり、中庭にクラス分け表が張り出されていた。
不安も、期待も交差するクラス替えの日、新館と旧館の中庭から少し見える空、それは快晴だった。
K(僕): 「今日から2年生か? クラス替えがあったけど、何組だろ? 知らない人ばっかりだとやだなぁ。」
ハル: 「よう、久々の同じクラスだな。 またよろしくな。」
K(僕): 「あ、同じクラス? よかった。 本当に久々だね。小4以来?」
ハル: 「そうだな。」
人見知りするので、ハルと一緒でちょっと安心した。
ハルは小学校2年から4年まで3年間一緒のクラスで、スポーツにも勉強もでき、絵も字もうまく、万能タイプだった。
同じクラスになった3年間は目標にいていた友達だった。
K(僕): 「えーと、2年3組か。 1年の時のクラスメートもあんまりいないなぁ。 よく知らない人ばっかだし。 ところで教室はどこ?」
ハル: 「旧館の一階の一番端だ。 教室に行く?」
K(僕): 「とりあえずね。」
旧館は学校北側に位置し、裏はすぐに裏路地があった。
車通りは少なく、ほぼ地元の人が通る程度であった。
その旧館1階の一番西の行き止まりの部屋が2年3組であった。
前と後ろに引き戸のドアがあり、前のドアから僕たちは教室に入った。
新しい仲間との出会いに2年3組は少し緊張の空気が漂っていた。
教室に入ってみると、席に座っている人、立って話している人、クラスの半数位すでに教室にいた。
現在の俺: (ここは…もしかしてあの時の2年3組…、懐かしい。)
何もかもが40年前のままだった。
ただみんなには俺は見えていないようだ。
現在の俺: (こんなチャンスは滅多にないから、このまま見ていようかな?)
黒板を見ると名前順に男女別で席が決められていた。
教室を見渡すと、窓際の一番前の席にショートカットの女の子が一人で座っていた。
女子の出席番号1番の女の子だ。
誰と話をするわけでもなく、大人しく黒板の方を見ていた。
横顔しか見えなかったが、ショートカットがよく似合っており、妙に気になって仕方なかった。
小学校の時も、中1の時も一度も会ったことがなかった。
K(僕): 「(北小の子かな?)」
彼女はおとなしくて時折、1年のとき同じクラスだったのか、別の女の子が彼女に話かけてきたが、静かに微笑んでいた。
色白で、時折見せる、恥ずかしそうに笑う顔、決してはしゃぐこともなく、そんな雰囲気に強烈に惹き込まれた。
K(僕): 「(名前、なんていうんだろう?)」
ハル: 「何をぼーっとしてるんだ?」
K(僕): 「え? ああ、あまり知らない人ばっかだなあって思って。」
その女の子に見とれていると、ハルが急に声をかけてきた。
さすがにその子が気になるなんて言えるわけない。
ハル: 「六組あるし、北小出身もいるからな。」
町内に小学校は2校あって、小2のときに児童数が多くなり、北小ができたこともあって、北小の生徒はほとんど分からなかった。
中学生になり、2校は同じ中学になり、一学年270人位になっていた。
小学校のときは五組あり、同じ小学6年生だけでも180人程度いたのだから、同じ小学校でさえ、名前の分からないこともしばしばあった。
篠井先生: 「みんな、席について。」
知らぬ間にクラスメート44名全員、教室にいて、先生の第一声で席についた。
最初の席は男女別名前順であり、僕の席はあの女の子とは対角線の真反対の廊下側の一番うしろの入口付近であった。
篠井先生: 「2年3組を担当する篠井です。」
オリエンテーションが始まったが、僕はずっとその女の子を見ていた。
その女の子は僕みたいによそ見をせず、担任の先生の方をずっと見ていた。
対角線の位置関係から、中央の先生を見ていると、完全な横顔まではいかないが、斜め後ろからかすかに横顔が見えた。
K(僕): (真面目な大人しそうな子なんだなぁ。)
僕は窓際の一番前の席に座っている女の子にずっとくぎ付けだった。
K(僕): (それにしても可愛い子だなぁ)
清楚って言葉が似合う大和撫子って感じであった。
十分すぎるくらい可愛くて、よく漫画で好きな人を見て「眩しい」って表現されていたが、本当に眩しいくらい輝いていた。
篠井先生: 「みなさん、新しいクラスになりましたので、自己紹介をしてもらおうかしら。
では端から順に、天宮さんから。」
さっちゃん: 「天宮です。 部活は吹奏楽部に所属しています。 1年の時は4組でした。」
一番前にいたその子は振り返って、小さな透き通った高い声で自己紹介をしてした。
声も可愛らしかったが、正面からの初めて見た顔も予想通りの吸い込まれるような、ドンピシャの顔だった。
K(僕): (天宮さんっていうんだ…。 かわいいから、絶対好きになっちゃいそう…)
天宮さんは1年生の集合写真のときはロングヘアであったが、初めて天宮さんを見たとき、つまり2年生になって髪を短くしていた。
現在の俺: (やっぱりショートカットが似合っていて可愛いなぁ。)
教室内には、春先のちょっと肌寒いが、新鮮な空気が立ち込めていた。
窓からは春のこぼれ日が差し込んでいて、何かが始まりそうな予感を感じられた。
順々に自己紹介が進み、最後の僕の番になった。
K(僕): 「一年のときは六組だった…」
自己紹介するとだいたいほぼすべてのクラスメートの視線が集まってくる。
さすがに直接天宮さんを見ることはできなかったが、前を向いて自己紹介すると当然、天宮さんの視線も僕に注がれてきた。
K(僕): (天宮さんがこっちを見ている…)
ただでさえ、みんなの前で発表したり、話したりすることが苦手な僕なので、好きな女の子に見られただけでも十分フリーズした。
K(僕): 「えーと…」
篠井先生: 「せめて名前くらい言わないと…」
K(僕): 「あ、Kです。 部活は…。」
現在の俺: (たしか一目惚れしたよなぁ・・・。 まさかその後につきあっちゃうんだから、幸せな中2生活が待ってるんだ・・)
初日なので給食もなく、その日は午前中で下校となった。
帰りの支度の最中も僕は天宮さんのことをちらちら見ていた。
現在の俺: (こりゃ、やっぱり相当好きになるわけだ・・。 だからその後の人生にも大きな影響を及ぼすわけだ…)」
篠井先生: 「みなさん、明日は学級委員や委員会、班を作るからね。 では、また明日、さようなら。」
これが、当然天宮さんと話できることはなく、だけど一目惚れするくらいの好きな女の子に出会った初日だった。
K(僕): 「ただいま。」
自転車通学の僕は自転車を置いて、玄関から家に入った。
母: 「おかえり。 昼ご飯できているよ。」
妹: 「お兄ちゃん、おかえり。 好きな子できた?」
K(僕): 「そんなすぐにできるわけない。」
現在の俺: (昔から妹と母は直感が鋭いんだよね。)
K(僕): 「着替えてくる。」
僕はそのまま2階の自分の部屋に行くために階段を上っていった。
K(僕): 「あの子、…」
現在の俺: 「天宮さんってかわいいよね。」
K(僕): 「うん。」
その後、急に俺の方を振り向かれた。
K(僕): 「うわっ、誰?」
現在の俺: 「あ、見えるんだ。」
K(僕): 「どうやって入ってきた? あんた、誰?」
現在の俺: 「信じないと思うけど、未来のお前だ。」
K(僕): 「は?」
Kはフリーズしていた。
K(僕): 「今日はかわいい女の子にあったり、変なおじさんが見えたり、夢なのかな?」
現在の俺: 「話を聞けって。 俺は未来から来た。」
K(僕): 「え? そんなこと理論上ありえない。」
現在の俺: 「でも俺はお前に似ているだろ。」
K(僕): 「まあ、似てないとも言えない…」
現在の俺: 「じゃあ、その証拠に・・・。 今日、天宮さんに一目惚れしただろ。」
K(僕): 「え? 天宮さん・・・ちょっと待って。 あんた、本当に誰?」
ほのかに顔を赤くした中学生の僕だったが、まだ呑み込めないこの状況に困惑もしていた。
現在の俺: 「だから38年後のお前だって。 そうじゃないと、こんなこと知らないだろ。 ショートカットのおとなしそうな、はにかむ顔に好きになったんだもんな。」
K(僕): 「そんな話はどうでもいいんだけど。 それなら何しにきた?」
現在の俺: 「よく聞け。 お前は天宮さんと半年後につきあうことになるが、1年後に別れてしまう。 後悔しないためにお前を、というか昔の俺を助けに来た。」
K(僕): 「えー、僕が天宮さんと付き合う・・・? そんなことありえない。 話したこともないのに…。」
現在の俺: (別れるほうが重大なんだけど。)
何やっても自信がない自分が懐かしかった。
現在の俺: 「でも本当は好きだろ。 だって38年前の俺が一目惚れしたんだから、お前も今日したはずだ。」
K(僕): 「……。」
現在の俺: 「ちなみに北小出身じゃないぞ。」
K(僕): 「え? 僕と同じ小学校なの? ん? 僕がなんで天宮さん、北小かなって思ったこと知っているの?」
現在の俺: 「そろそろ信じてもらわないと… 同じ苦しみを味わうことになるから。 その前につきあわないと、その後の苦しみもないから、まず…。 天宮さんの隣りの席に座りたいだろ? 班長に立候補したほうがいいぞ。」
K(僕): 「そんな、みんなの前で立候補なんて…、できない。 まだ信じていないけど。もし未来の僕ならわかるでしょ。」
現在の俺: 「百も承知だ。 今日までのお前ならみんなの前で立候補なんか、一回したことなんかないからな。 でもな、天宮さんのことが好きなら、立候補しないと絶対後悔する。 班長にならないと天宮さんとつきあう歴史が変わってしまうぞ。」
K(僕): 「僕は班長に立候補するの? 立候補すれば天宮さんとつきあえるの?」
現在の俺: 「天宮さんのこと、好きだろ。 俺を信じろ。 おまえの歴史を経験してきたんだから。」
K(僕): 「・・・・」
現在の俺: 「だから班長に立候補して天宮さんを獲るんだ。 やるしかない。」
K(僕): 「みんなの前で手を挙げるなんてできるかな?」
現在の俺: 「いつも自信をもってやらないと、こればかりは絶対後悔する。 絶対に班長に立候補するんだ。 そして一番に天宮さんを獲る。 好きなんだろ?」
K(僕): 「・・・。 頑張ってみるけど・・・。 できるかな…」
現在の俺: 「今回は頑張るんじゃなくて、絶対やるんだ。」
K(僕): 「どうやって立候補したの?」
現在の俺: 「手を挙げるだけだ。」
K(僕): 「それはそうだけど。 本当に未来の僕なの?」
現在の俺: 「信じろ。 あの時は好きだったから何も考えずに手を勢いで挙げちゃったんだから。 お前も俺だからできるはず。」
K(僕): 「勢いね…。」
現在の俺: 「天宮さんとつきあえたら、うれしくないか?」
K(僕): 「それはそうだけど。」
現在の俺: 「じゃあ、班長に立候補して、班員に天宮さんを獲るんだ。」
K(僕): 「できるかな…」
現在の俺: 「やるしかないんだ。」