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「──それでさ、お願いがあるんだけど」俺はワイングラスを置いた。麗華さんはふと顔を上げた。
「今日もお願いしたいんだ」
そう言うと麗華さんは少し考えてから首を振った。
「やめておきなさい。こんな時にそんなことするのは勧めない」
俺は麗華さんの言葉を無視して上着を脱ぎ始めた。麗華さんが眉を顰めているのは見えていたけれど無視した。上を全部脱ぐとさっさと手首に拘束具を嵌めた。
「まさかワンピースだから出来ないってことはないよね?」
「それで煽ってるつもり?」
「──お願いだ。頼むよ」
麗華さんは大きな溜め息とともに立ち上がった。壁にかかっている鞭を手に取った。ピシリと音を立てる。そして俺の手を取ってもう片方の拘束具を嵌めた。
「今日は俺が止めるまでやめないで欲しいんだ」
そう言うと麗華さんは片眉を吊り上げた。
「私が手を抜いて止めるとでも?」
「そうじゃない。けどどんなに苦しがってもやめないで。やめて欲しい時は必ず言うから」
そう懇願する俺を麗華さんは無視した。
「ここでは私がルールを決めるの。碧じゃないわ。でも願いを聞いてあげるのも必要だもの。いいわ」麗華さんはそう言ってまた手の中で鞭を鳴らした。そしてすぐにその鞭は振り下ろされた。
すぐに背中は熱を帯びた。食べてないし眠ってもいない。しかも酒を飲んでしまった。いつもより鞭は身体に堪えた。けれどどんどん頭はクリアになっていく。
一体誰が石川を殺したんだ? 十分に怪しいのは〈鳴門組〉の奴らだ。けれどその理由が分からない。それは〈鳴門組〉を問い詰めたところで絶対に吐かないだろう。どうすればいい?
鞭は止まらなかった。そろそろきつくなってくる。けどこんなところでやめちゃ駄目だ。俺は絶対に挫けないって誓ったんだ。麗華さんは「そろそろ血が滲むわよ」と小さな声で呟いた。そんなこと知るか。
真実は誰からも語られない。なら真実じゃないことを潰していけばいい。そう。〈極翠会〉の梨田だ。梨田に聞けばいい。殺したかどうかなんて聞いたって答えないだろう。だが本当に石川が梨田の情婦にちょっかいかけていたかどうかさえ分かれば答えは自ずと出る。〈極翠会〉は大きなところらしいから、確かに石川がそんなことをしたなら消されて当然だろう。
けれどそんな事実がなかったとしたら? 話はまるで違う。〈極翠会〉は全く関係ないってことになる。探るか? だが俺には〈極翠会〉に知り合いはいない。ならどうする? 決まってる、そんなの正面突破だ。殺られるかもしれない。けど今さらそんなことはどうでもいい。石川の汚名を返上できるなら刺し違えてやる──。