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しばらく歩き続けたフィニス達。気がつけば、日はすっかり沈んでいた。
夜の静寂が、フィニス達のいる聖域を深く包み込み、踏みしめる草の露が、月の光を浴びて小さくきらめいている。
「あそこに見えるのが世界樹……ミトラの樹よ」
木々の隙間から見えてくる、巨大な樹。最後の木立ちを抜けた瞬間見えてきたのは、天を突くほどの大樹。
「これが……ミトラの樹……」
葉の一枚一枚が、まるで夜空の星を閉じ込めたかのように、周囲の夜闇を照らし出している。
「本当に……綺麗なマナよね……」
『そりゃ世界樹だもん。ここより澄んでいる場所なんて無いわよ』
「うふふ、そうね」
いつもそうして身体を癒しているのだろう。エレノアは木の根元へと近づいていくと、その場で目を閉じて座り込んでしまった。
「不思議な感覚だ……身体が……軽い」
何も感じ取れないのに、身体が明らかに軽くなっていることを実感するフィニスは、その場で手を握っては開いてを繰り返している。
フィニスが隣に視線を送ると、目を輝かせたアルテアがゆっくりと世界樹の元へ歩いていった。
「動くな!お前達……何者だ!」
後ろから声が聞こえると同時に、近くにいたフィニスとアルテアの2人の足元が輝き出す。
「?!」
足元の魔法陣のせいだろう。慌てて後ろを振り向こうとするも、指ひとつ動かすことができなかった。
「あら?」
目を瞑っていたエレノアが振り返る。フィニス達の後ろには、白い装束を着た集団。
「あらあら……この人達は私の連れよ?ちゃんと許可も取ってきてるんですから」
エレノアがそう言うと、先頭に立つブロンド色をした長髪の女性が後ろの集団に向けて手を向ける。
「……」
先頭に立つ女性の指示なのだろう。すぐ後ろにいた女性が翳していた杖を下ろすと、2人の足元の魔法陣が静かに消えていった。
「くはっ!」
「……」
魔法が解けた瞬間、2人が後ろを振り向く。
「……!!」
先程の世界樹を見た時とはまた違う、驚きの表情をするアルテア。
先頭に立つ女性が一歩、また一歩とフィニス達に近づく。
「信者達が手荒な真似をしてしまいすみません……調査員のエレノア様。護衛のフィニス様。そして……」
アルテアの目の前で足を止める。
「ごめんね……アルテア」
みるみるうちに瞳に涙が溜まっていくアルテア。
「ルミナ……お姉ちゃ……!」
目から涙が溢れる瞬間、アルテアはルミナの胸元へと飛び込んでいた。
「アルテア……今までよく頑張ってきたわね……」
「うん……うん……」
優しくアルテアを抱き留めるルミナ。そのルミナの目からも、大粒の涙がひとつこぼれ落ちていた。
⸻
「あぁん……もう!そんなに泣いちゃダメじゃない!可愛い顔が台無しよ♡」
「もう……大丈夫ですから!離れてくださいって!」
しばらく泣いていたアルテアの頭を優しく撫でていたルミナ。先ほどまでの神々しさは何処へやら……まさにルミナお姉ちゃんの姿へと変わっていた。
腕を突っ張るアルテアを無視して、強引に抱きついているルミナ。
「「……」」
「はぁ……」
「ちっ……」
教会のトップである大神官のこんな姿に、信者たちは言葉を失っている。その中で一人だけ、小さく舌打ちをした者がいた。きっと見たくもない姿だったのだろう。
「随分とまぁ……イメージと違う感じだな……」
アルテアたちの横を通り過ぎ、ゆっくりフィニスの隣に歩いてきたエレノア。
「あれが大神官なんていう役を演じていない、本当のルミナさんの姿なのよ」
そう言いながら微笑ましそうに眺めているエレノア。
「アルテア!本当にごめんね!私知らなかったのよ!?あなたが追放されてたこと……知っていたら、追放なんて言い出した信者を独房に入れてでも反対したもの!」
「わかりました!わかりましたから!もう!!」
「ん〜!!それなのに今でもミトラ様の教えを信仰し続けてくれて、お姉ちゃんうれしい!!」
「だから!わかりましたって!」
静まり返った森の中に、2人の微笑ましいやり取りだけが響いている。
無理やりルミナを引き剥がしたアルテア。
「あぁんもう♡」
名残惜しそうな声を出しながら、今度は視線をフィニスへ移す。
「あなたが……」
そう呟き、コホンと小さく咳払いをした後、身体をフィニスへ向ける。
「ヴェスパさんから話は聞いていました。本当に……ありがとうございました」
大きく頭を下げるルミナ。
ざわっ……
その瞬間、後ろの信者達がざわつき始める。フィニスもその後ろからの視線に居心地が悪くなり、慌てるように言葉を返した。
「い、いや!よく分からないですけど、とりあえずは頭を上げてください!」
スッと頭を上げるルミナ。
「大神官として……人を比べることはいけないことだとは分かっています。それでも、この子は……私にとっても家族……本当の妹のような存在。それなのに……知らなかったとはいえ、この子を傷つけてしまった……」
優しい目でアルテアを見るルミナ。
「この子を……ここまで強く……そして優しく支えてくれたあなた方には本当に感謝しております」
そして再び頭を下げるルミナ。
「いや……だから頭を……!!」
ゾクリ……
突如背後から感じた殺気。
「ゼフィリア!!」
『いるわよ!』
隣にいたエレノアも何かを感じ取ったのだろう。胸元に隠れていたゼフィリアがひょこっと頭を出してきた。
バチバチッ!
2人が振り向いた次の瞬間、2人の間を駆け抜ける一閃の光。その光が一直線にアルテアへと向かって行く。
「……え?」
バチバチと音を立てた光が、アルテアに直撃しようとしたその瞬間……
「アルテア!!」
咄嗟に手元にあったアルテアの腕を強く引くルミナ。
「くっ……!!」
バチチチ!!
ドサッ!
唸る放電の音と共に、腕を引かれてバランスを崩したアルテアが地面に倒れ込む。
「ルミナお姉ちゃ……!!」
一瞬転んだ痛みで顔を歪めたアルテアが、顔を上げ、ルミナの方に視線を送ると……
「……大丈夫?……怪我……してない?」
脇腹を何かに焼き抉られているルミナが立っていた。
コメント
1件
うわあ……今回めっちゃ泣けた。アルテアがお姉ちゃんの胸に飛び込むシーン、もうこっちまで涙腺崩壊しかけたよ。「ごめんね……アルテア」って一言に、ルミナの後悔と愛が詰まってて本当に胸にくるものがあった。大神官の立場を超えた姉妹愛が刺さりまくり。ラストに急に襲撃が来て、最後のルミナの身代わりには「うわマジか!」って声出たわ。次の話、アルテアどうなるんだろう……めっちゃ気になる😭