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保健室のカーテンの中は、静かだった。
チャイムの音も、廊下の足音も、
全部、遠い。
おんりーは、ベッドの横に座ったまま動かない。
逃げない。
視線も、逸らさない。
その距離が、
もう「友だち」じゃないことを、
おらふくんははっきり感じていた。
「……ねえ」
自分から声を出したことに、
少し驚く。
「……思い出したらさ」
喉が、詰まる。
「……余計、怖くなった」
おんりーの眉が、わずかに動く。
「……昔も、今も」
続ける。
「……助けられてばっかで」
「……また、いなくなるんじゃないかって」
言い終わる前に、
おんりーの手が、ベッドの端を強く掴んだ。
「それ」
低い声。
「一番、言わせたくなかった」
顔を上げる。
「……俺は」
息を一つ。
「助けてるつもりで、戻ってきたわけじゃない」
おらふくんの胸が、どくっと鳴る。
「……会いに来た」
一瞬、言葉が理解できない。
「……は?」
思わず、間の抜けた声が出る。
おんりーは、少しだけ困った顔をした。
「……転校したあと」
「ずっと、引っかかってた」
「泣いてたやつ」
「手、離したままのやつ」
そのまま、まっすぐ見る。
「……忘れてたのは、俺の方だった」
空気が、張りつめる。
「……だから」
声が、少しだけ震える。
「今度は、離さない」
おらふくんの胸の奥が、熱くなる。
「……それって」
言いかけて、止まる。
言ったら、
全部変わってしまう気がして。
でも――
もう、戻れない。
「……俺のこと」
名前を、呼びそうになって、
飲み込む。
おんりーは、察したみたいに、先に言った。
「好きだよ」
迷いが、ない。
「昔から」
一拍。
「……今は、もっと」
世界が、静かになる。
怖い。
でも、嬉しい。
「……逃げない?」
小さな声。
おんりーは、即答だった。
「逃げない」
「傷ついても、面倒でも」
「……一緒にいる」
その手が、
そっと、おらふくんの指に触れる。
握る。
確かめるみたいに。
「……じゃあ」
おらふくんは、息を吸って。
「……俺も」
言葉が、震える。
「……一人で、耐えるの、やめる」
おんりーの目が、少しだけ潤む。
「……それでいい」
「それがいい」
距離が、自然に縮まる。
額が、軽く触れそうなほど。
キスは、しない。
でも、
それ以上に近い。
「……恋人?」
おらふくんが、恐る恐る聞く。
おんりーは、少しだけ笑った。
「……嫌なら、やめる」
首を、振る。
「……嫌じゃない」
むしろ――
胸が、いっぱいで、苦しい。
「……じゃあ」
おんりーは、低く言った。
「今日から」
「俺の一番、大事な人」
カーテンの外で、誰かが歩く。
世界は、続いている。
いじめも、傷も、
簡単には消えない。
でも。
もう、一人じゃない。
守る・守られる、じゃない。
並ぶ、になった。
おんりーの手は、
最後まで、離れなかった。
区切りわるし(わるくない)
それは、あまりにも突然だった。
昼休み。
教室の空気が、ざわついている。
おらふくんの隣に、おんりーはいない。
呼び出された、と誰かが言っていた。
胸が、嫌な音を立てる。
――まさか。
廊下に出た瞬間、
怒鳴り声が聞こえた。
「調子乗りすぎなんだよ」
角を曲がった先。
壁際に、
おんりーが立たされていた。
制服の胸元を掴まれ、
押し付けられている。
「ヒーロー気取りか?」
「チクって、気持ちよかった?」
拳が、腹に入る。
鈍い音。
おらふくんの足が、凍りつく。
「……やめ」
声が、出ない。
次の瞬間、
膝に蹴り。
おんりーが、低く息を吐く。
それでも、相手を睨み返す。
「……俺は」
かすれた声。
「やめろって、言っただけだ」
「は?」
笑い声。
「それが一番ムカつくんだよ」
もう一発。
壁にぶつかる音。
おらふくんは、
その場から、一歩も動けなかった。
頭の中で、
何度も同じ言葉が回る。
――助けなきゃ
――でも
――足が動かない
結局、
先生の声が廊下に響いて、
相手は散った。
保健室。
おんりーは、ベッドに腰かけている。
唇が、少し切れていた。
おらふくんは、
入り口で立ち尽くしたまま。
「……ごめん」
やっと出た声。
「……俺、何も」
言葉が、途切れる。
「……見てただけだった」
胸が、締めつけられる。
「……俺のせいで」
「……俺が、弱いから」
その瞬間。
「違う」
おんりーが、即座に言った。
顔を上げる。
怒っていない。
失望も、ない。
ただ、真っ直ぐ。
「……あれは、俺が選んだ」
「お前を守るって」
一拍。
「……殴られる覚悟も、含めて」
おらふくんの目が、揺れる。
「……でも」
声が、震える。
「……俺、何もできなかった」
「……怖くて」
拳を、強く握る。
「……情けなくて」
おんりーは、ゆっくり立ち上がり、
おらふくんの前に来た。
そして――
額を、軽くぶつける。
「……それでいい」
低い声。
「動けなかったなら、動かなくていい」
「叫べなかったなら、黙ってていい」
おらふくんの喉が、詰まる。
「……俺は」
おんりーは、少しだけ笑う。
「……守られたら、守り返せって話じゃない」
「……一緒に、生き残るって話」
その言葉で、
おらふくんの涙が、落ちた。
「……こわかった」
初めて、ちゃんと。
おんりーは、迷わず抱き寄せる。
「……うん」
「……それでいい」
あの日、
立場は、確かに入れ替わった。
でも、
壊れなかった。
責められなかった。
見捨てられなかった。
それが、
おらふくんにとって、
いちばん大きな救いだった。
区切り、よかったのに、なんでのばしちゃうんだ…