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保健室を出たあと、
おんりーは「先に帰れ」と言った。
いつもの調子。
何でもないみたいな顔。
おらふくんは、逆らえなかった。
夜。
部屋の電気は、ついていない。
制服のまま、床に座り込んでいる。
背中を壁につけて、
膝を抱えたまま、動かない。
スマホが震える。
【無事着いた?】
既読をつけて、
返信しない。
――だめだ。
今、声を出したら。
胸の奥が、ぎゅっと締まる。
廊下で殴られたときの音。
壁の冷たさ。
おらふくんが、動けずに立っていた顔。
「……」
息が、うまく吸えない。
「……っ」
喉の奥が、ひくっと鳴る。
守れた。
確かに、守れた。
でも――
「……こわかった」
誰もいない部屋で、
初めて声に出た。
拳を、床に叩く。
「……くそ」
痛みなんて、どうでもよかった。
「……あいつの前で、平気な顔して」
「……ほんとは」
肩が、震える。
「……逃げたかった」
あのとき、
もう一発来たら、
足が折れてたかもしれない。
頭のどこかで、
もし、おらふくんが見てなかったら
って考えてしまう。
――もっと、無茶してた。
「……俺が、壊れたら」
声が、掠れる。
「……次は、あいつが一人になる」
その想像だけで、
胃の奥が、ひっくり返る。
コンコン。
ドアの音。
「……おんりー」
小さな声。
心臓が、跳ねる。
「……開けるよ」
止める声は、出なかった。
ドアが開いて、
おらふくんが立っている。
部屋の暗さに、
一瞬、目を細める。
「……電気、つけていい?」
うなずく代わりに、
視線を逸らす。
明かりがついて、
全部、見られた。
床に座ったままの姿。
震える肩。
赤くなった目。
「……」
おらふくんは、何も言わず、
そっと近づいてくる。
そして――
同じように、床に座った。
「……さっき」
低い声。
「……責められないって言われて」
一拍。
「……でも」
顔を上げる。
「……俺は、責めた」
おんりーの喉が、鳴る。
「……自分を?」
小さく、うなずく。
「……守るって言ったのに」
「……怖かった」
その言葉を聞いた瞬間、
おらふくんの目から、涙が落ちる。
「……言ってよ」
震える声。
「……怖いって」
「……俺、隣にいるって、約束したのに」
おんりーは、初めて、顔を歪めた。
「……言えなかった」
「……言ったら」
一拍。
「……守れないって、思われる気がして」
おらふくんは、
ゆっくり、おんりーの手を取る。
震えている。
「……守れない日があっても」
指を、絡める。
「……一緒にいられるなら、いい」
その瞬間。
おんりーの呼吸が、崩れた。
「……っ」
声を殺そうとして、失敗する。
おらふくんは、
何も言わず、抱きしめた。
今度は、
守る/守られるじゃない。
ただ、
倒れないように、支えるだけ。
「……ごめん」
おんりーが、やっと言う。
「……俺、限界だった」
「……うん」
おらふくんは、強く抱きしめる。
「……それでも」
耳元で、はっきり。
「……一緒にいる」
その夜、
二人は、何も解決していない。
いじめも、恐怖も、
まだ終わっていない。
でも。
弱いまま、隣にいる方法を覚えた。
それは、
前よりずっと、強い関係だった。