「ぺいんと、無理しなくていいんだぞ」
「俺が食べる」
頑なに赤い箱を離さないぺいんと。
「お前になんかあったら…」
「それは俺も同じなんだよ。実は体が弱々なトラゾーは普通の方食っとけよ」
「ゔぐっ」
確かによく熱は出すは倒れて救急車で運ばれるは、…指摘されたことが本当のことだから何も言えない。
心配してくれて言ってくれてるから尚更文句も言えない。
「その心配だけで十分嬉しいよ」
ニッと笑ったぺいんとは赤い箱からチョコを取り出し口に放り込んだ。
「あっ」
「ほら、もうトラゾーはそっち食うしかねーからな」
片側のほっぺに詰めてそう言ったあと噛み砕いて飲み込んだ。
ごくりと嚥下した音が妙に生々しい。
「……ごめん、ありがとうぺいんと」
青の箱からチョコを取り出し口に入れる。
ビターチョコだったようで苦い。
それを噛み溶かして飲み込む。
体感で数分して、ベッド前に立っていた俺は扉の前に立つぺいんとに近寄る。
「大丈夫か?体、変なことなってない?」
「…今んとこ大丈夫そう」
その言葉にホッと息を吐く。
「鍵、開いたんかな」
ぺいんとの横を通り過ぎようとしたら手を掴まれた。
異常なほど熱いぺいんとの手。
「⁈、やっぱお前無理してんじゃんか!」
とりあえずベッドに座らせようと手を掴まれたまま元の場所に戻る。
「とりあえず座れ!」
肩を押してベッドに座らせる。
「……」
即効くタイプのものだったらしい。
顔を赤くしたぺいんとはゆっくりと息を吐いている。
とにかく、どうにかしなくては。
そう思って何かないか探し回るが、簡素な部屋は探す場所なんて限られていて。
最後の頼みの綱と、箱が乗っていたチェストを開けた。
そこにはラベルのない水が入っていた。
「……」
常温のそれ。
この水を飲ませても良いものか。
あんな物をここに置いておく人間だ。
ここに入ってる水がただの飲料水なわけがない。
そう疑わざるを得ない。
「…っ」
「ぺ、ぺいんと…」
とりあえず熱がないかとかを確認しようと近寄ると手で制された。
「!……だめだ。今は俺の方に、来んな…」
その手は震えている。
「お前のこと、傷付けたくねー…」
それが意味するものが分からないほど、俺はバカではないし子供でもない。
でも、
「っ!!、バッカ!ぺいんとの大馬鹿野郎!」
俺の大きな声に顔を上げたぺいんとは目をパチクリさせた。
その目も涙で滲んでいる。
「俺だって、お前1人がやな思いするの嫌だ」
手に持っていた飲料水の蓋を開けて中身を口に含む。
「お、おい…まさか…」
ベッドに座り込むぺいんとのほっぺを掴んで水を飲ませた。
「ゔ!」
「っっ、」
こくりと飲んだのを確認して口を離す。
「バッ、カ!トラゾーお前何やったのか分かってんのか⁈」
「分かるよ!…でも、友達が苦しんでるのに、助けることができない方が嫌だ。俺なんかとこんなことするのやだったかもしんねぇけど、ぺいんとが苦しいのに俺1人で帰るなんてできるかよ」
「……ともだち」
「当たり前だろ!」
ペットボトルの中身は普通の水のようだった。
無味無臭の可能性は捨て切れないが、おそらく大丈夫だと思う。
「ほら、とりあえずこれ飲んで…。落ち着いたら一緒に帰ろ?」
ぺいんとに手渡そうとペットボトルを差し出すと、水を持ってない方の手を掴まれた。
「ぺいんと…?」
その手はまだ熱い。
「…友達、ね」
手を引っ張られてぺいんとに覆い被さる形になる。
「ぅわ、…ちょっぺいんと」
困惑する俺を無視してペットボトルを取ったぺいんとは中身を口に含む。
手首を掴む手の力は緩いのに、何故か振り解けなかった。
「ぺいん…ん゛っ⁈」
半分ほど一気飲みしたかと思ったらペットボトルを床に放り投げた。
え、と思った時には頭を掴まれてさっき俺がしたように水を口移しされた。
「ん、ンぅ!」
苦しくなって水を飲み込む。
「ふっぅ⁈」
口内にぺいんとの舌が入ってきて逃げようとしたら手首を掴んでいた手が腰に回される。
がっちりと抱き込まれて逃げることが出来なくなった。
「ぅ!ん、ふッ、はっ…」
熱いのは手だけでなくて、口内に入り込むぺいんとの舌も熱い。
頭がぼーっと痺れてくる。
上顎をなぞられたりしてびくりと肩が跳ねる。
「ぁ、ふっ…」
ようやく離された時にはぺいんとに完全に凭れ掛かる格好になった。
「お前は友達にこんなことすんの?」
「ッは…だって、緊急、事態…」
「……じゃあ、俺、今緊急事態だから助けてくれるんだよな?…友達なんだから」
何か地雷を踏んでしまったようで、ぺいんとにひっくり返されてベッドに押さえつけられた時に遅すぎる後悔をするのだった。
「ぁ゛、っぃい…!」
「トラゾーんナカも熱いな」
「ひ!ゃだ、だめだ…ッ」
奥まで入り込むぺいんとのモノは熱い。
触れる肌も熱く、火傷してしまいそうだった。
「さっきの水にもなんか入ってたのかもな?もしそうならトラゾーお前、やってくれたな」
俺にも飲ませたじゃないかと涙目で睨みつける。
「はッ♡、そーいうとこ可愛いな」
「ひぅゔっ!!」
ぐっと弱いトコを押されてぺいんとにしがみつく。
「ほら、お人好しで優しいトラゾーは友達のことも自分の身体で助けてくれんだろ?なぁ⁈」
「⁈、そ、それいじょ、ひッ、だめだっ」
乱暴に突かれて目を見開く。
「ここに俺以外の奴と閉じ込められてもお前はおんなじことすんだろうな?友達だ、って言って!」
「ちが、そうじゃな、ぁあ゛⁈」
何が地雷だったんだ。
そりゃ、普通の友達に口移しでなんかで水を飲ませたりしない。
生き死に関すること以外では。
今は人工呼吸なんかもしない。
気道確保と心肺蘇生を優先とするから。
でも、そのくらい俺はあれはよくないと思ったから、それが要らないお節介だったのだろうか。
俺なんかにされるのが嫌だったから、ぺいんとは怒ってるのだろうか。
友達と名乗ったのがダメだったのだろうか。
そう思うとボロボロと涙が落ちていく。
「ひ、っぅ…ごめん、ぺいんと、ごめんッ…」
「…それ、何に対する謝罪だよ」
ぴたりと動きを止められ、余計にナカに脈打つぺいんとのモノがあると感じさせられる。
「ぅぁ、ッ、おれな、んかが…ぺいんとのっ、ともだちだなんて、いって…」
「……」
「でも、たすけた、かった、からッ…ひ、ぅ…おれ、」
「……」
拭っても拭っても落ちていく涙。
「……トラゾー」
ここにきてやっといつものぺいんとの声を聞くことができた。
「お前のその自己犠牲をお節介とか思ったことはねぇよ。…トラゾーの長所であって短所なんだし」
「ぺいんと…?」
「俺が怒ってんのは……お前に友達としか思われてなかったからだよ」
「……ぇ?」
「トラゾーって誰にでも優しいから、…誰にでもこういうことすんのかって思ったらムカついた」
抱き起こされて、ぺいんとの上に座らされる。
「ぁ゛ゔ⁈」
「トラゾーのこと好きなのに、友達って言われてムカついたし、…悲しかった」
ゆるゆると動きを再開したぺいんとの肩にしがみつく。
「ん、ぁあッ」
「なぁ、こういうこと他の奴らとできんの?」
下から確かめるように見つめられる。
その間も揺さぶられて、まともに考えることができない。
「クロノアさんとかしにがみくんとか、…ほら、らっだぁとか?」
全く想像できない。
しにがみさんとは一番想像がつかない。
ぺいんととなら、しょうがねーやってできるのに。
考えようとしても全然、その映像を思い浮かべることができない。
「どうなんだよ」
首を横に振ってぺいんとの首に顔を埋める。
「むりぃ、!ぺいんと以外、むりぃい…ッ」
そう答えに至った。
「ッッ〜♡」
ナカで大きくなるソレに逃げかけて腰を掴まれて戻された。
「ひゃぅゔ⁈」
「そうだよなぁ?トラゾー、俺のこと大好きだもんなぁ♡」
「ぁ、ぅ゛んぁあッ」
「な?トラゾー♡」
「ぉれ、ぺいんとのことすき、だから?」
「そうだよ。トラゾーは俺のこと好きだから助けたかったんだよな?」
そう言われてぴたりと何かがはまった。
「♡!!、そっかぁ…」
へにゃりと情けなく笑った俺はぺいんとに抱きつく。
「すき、ぺいんとのこと、だいすき…♡」
「あ゛ぁ…クッソ可愛い」
そういう欲目だから、助けたかったのか。
だから、他の人じゃ考えれなかったのか。
「ほら、俺が満足するまで、俺のこと助けてくれるよな?トラゾー♡」
「するッ、ずっと、たすける♡」
嬉しそうに笑うぺいんとにきゅっとお腹が反応する。
「じゃあ、これからもずーーっと、よろしくな♡」
「ぅんっ♡」
抱きつくと抱き返してくれるそれが嬉しくて、好きな奴を助けることができるという達成感?と幸福感に満たされていた。
小声で呟くぺいんとの声は耳には入らなかった。
──どうせ、することは一緒なんだから楽しんだもん勝ちだろ。
コメント
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やっぱお互いを煽ったりできるのって同い年組だからできることですよね、めっちゃ美味しいです✨️ ※美味しいとは推し受けが尊いことです