テラーノベル
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誰ですか 。?
友達の手のひらは、まだ温かいように思えた。
でも、その温度が“人の温度”かどうかは、
わからなかった。
「……ねぇ、本当に何の話してるの?」
友達は、首をかしげたまま笑わない。
その表情に、どうしようもない
違和感が張りついていた。
「さっきからずっと、変なんだよ。
“手を握ってた”って……誰と?」
私は喉の奥が詰まるのを感じながら、
息を飲んだ。
そのとき――
ふいに山風が吹き、
木々がざわり、と揺れた。
その音には、まるで誰かのすすり泣きが混じっているようだった。
「帰ろう。ここ、危ないよ……」
震える声で言ったが、友達は動かない。
まるで根を張ったみたいに、
そこから一歩も動こうとしない。
「帰る……?私が……?」
その声は、妙に遠かった。
「帰る場所なんて……あの日から、ずっと無いよ?」
「……え?」
友達の顔が闇に溶け、輪郭がふっと薄くなる。
「覚えてないの?
三年前、この山で……迷ったじゃん。
肝試しの帰りに、私たち二人で……」
三年前――?
記憶の奥で何かが軋む。
ただ、それは絶対に見たくない“何か”だった。
「……あの日、私だけ戻れなかったんだよ。」
友達が、笑った。
だけどその笑みは、どこか悲しかった。
「死んじゃったんだよ、私。」
心臓が、ゆっくりと冷たく固まっていく。
「どうして……そんなこと言うの……?」
「だって本当だもん。
あなたは覚えてないんだよ、全部。
見たくなくて、忘れちゃったんだよ。」
友達の足が、地面から少し浮いて見えた。
いや、浮いているんじゃない。
地面に“影”が、無かった。
「でもさ。あなたが毎日、私の家に遊びに来てくれてたの……嬉しかったよ。
私、生きてると思ってくれてたんだよね?」
呼吸が止まる。
「だって……普通に話して……笑って……一緒に帰って……」
「うん。全部、あなたにしか見えなくて、聞こえないの。
だって私は――」
風が止まり、森が息を潜めた。
「――死んでるから。」
その言葉と同時に、頭の奥で何かが裂けた。
三年前。
暗い山道。
パニックになって、二人で走った。
足を滑らせて、岩にぶつかって――
友達は動かなかった。
呼んでも、泣いても、揺さぶっても。
……私は逃げた。
怖くて、怖くて、助けも呼ばずに。
“助けられなかった”じゃない。
“置いてきた”。
その記憶が洪水みたいに押し寄せて、
膝が崩れた。
「ごめっ……ごめん……っ」
涙で地面が滲む。
友達は、ふっと優しく笑った。
「謝らなくていいよ。
あなた、生きてくれたんだもん。」
ゆっくりと、
友達の姿が白い霧みたいに薄れていく。
「今日ね……やっと山が“返してくれた”の。
あなたに伝えたかったから。」
「やめて……行かないで……っ」
「大丈夫。
もう、ついていかないよ。
あなたの人生は、あなたのものだから。」
友達は、
透き通った声で最後の一言を落とした。
「――ありがとう。忘れないでね。」
そして、風と一緒に消えた。
そこにはもう、
足音も、
声も、
何ひとつ残っていなかった。
ただ、私の震える呼吸だけが、
山に吸い込まれていった。
コメント
2件
友達ちゃんちょっと天国から引きずってくるわ(((