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「プジョル様、見ていただきたいものがあるのですが、いまはお時間をよろしいでしょうか?」
昨日、セドリック様と一緒に学園の図書室に行って借りてきたミクパ国の本の料理のページをまとめて、それをプジョル様に提出する。
「大丈夫だ。ミクパ国の料理についてだね」
わたしからミクパ国の料理についてまとめた書類を受け取るとそれに目を落とし、すぐにプジョル様は顔を上げた。
「調理部にこの情報は?」
「調理部の仕事が落ち着く14時に打ち合わせの時間を頂いています」
プジョル様が満足そうに頷いた。
「手配が早いな。私もその打ち合わせに一緒に行こう」
「わかりました。よろしくお願いします」
ミクパ国の料理は珍しい乳製品をふんだんに使った料理が多いようだ。
実際に昨夕になにか簡単なものでも作ってみようとしたが、材料が屋敷になかったので断念した。
伯爵令嬢のわたしが料理をしようとしたのが意外だったようで、セドリック様はすごく驚いておられた。
学園を卒業以来、わたしは寮生活だったから料理をする機会はなかったけど、父の胃袋を掴んで結婚をした母は、よくお菓子を作っており、わたしも一緒に作らされたから料理は少しだけできる。
それに料理とは作り方さえ分かれば、出来るものだと思っている。
きっと、本のとおりに調味料を入れて混ぜて焼けば良いだけだろう。
ミクパ国の本で話しが盛り上がったセドリック様と今度の休日に一緒にミクパ国の料理を作ってみることになったので、いまから楽しみにしている。
わたしからしたら、侯爵家嫡男で一見、堅物そうなセドリック様が料理をしたがるほうが意外で驚きだった。
調理部との打ち合わせは笑顔で始まった。
本には3品紹介されていたが、我々でも作れそうで、レセプションでも出せそうな冷めても美味しそうな料理が1品でも見つかって、みんな安堵したのだ。
ミクパ国の料理を1品、そして我が国の料理を何品か並べることとなった。
「まずは試作ですね。いまからすぐに材料を買い出しに行って、作ったみたら大体の費用が算出できそうですね」
調理部の担当者は、ミクパ国の料理を早速作ってみたいらしい。
料理人の血が疼くとやる気が煮えたぎっている。
いまから買い出しに行って、試作すると言い出した。
もちろん、材料費の算出を早くしたいわたしとしてもありがたい。
「シェリー嬢は一緒に市場に行きますか?」
「わたしも同行して良いのでしょうか?」
調理部の担当者はうれしそうに頷いてくれる。
「予算のこともありますし、一緒に来ていただけると助かります」
上司であるプジョル様の了承を得ようと、プジョル様に視線を移すと、プジョル様もかなり乗り気のようだった。
「私も同行させて頂いても?」
プジョル様も同行することとなった。
儀典室に一度戻ってからすぐに3人で歩いて城下にある市場に向かった。
夕方が迫ってきている時刻でもあり、店じまいが少し始まっている。
調理部の担当者の知り合いの乳製品を扱うお店に行くと、たくさんの種類の乳発酵製品が並べられていた。
ミクパ国の料理を転記したわたしの書類を見てもらい、どれが良いのか教えてもらう。
値が張るものを多いので、あれやこれやと悩みながらもなんとか買うことができた。
王城のお金は国民からお預かりしているお金だ。無駄なことはできない。
店を出て、大急ぎで他にも必要な物を買い揃えた。
不意にプジョル様が後ろから誰かに声を掛けられて、肩を軽く叩かれた。
3人で振り向いて、大声を上げそうになったが、寸前のところでわたしと料理部の担当者は堪えた。
プジョル様は平然としている。
「おや、こんなところでなにをしておいでですか?皇太子殿下」
城下におられる皇太子殿下は、騎士様のような出立ちだった。
「もちろん遊びじゃないよ。城下の視察だよ」
わたし達でもわかってしまうぐらいの意味あり気な表情でニヤリとされる。
これ、絶対に城下でなにかあったに違いないが深くは聞きたくない。
「そういうことにしておきましょう。早く城にお帰りください」
プジョル様が本当に嫌そうに皇太子殿下を追い返そうとする。
皇太子殿下をそんな扱いにして良いのかと、わたし達はハラハラしながら、おふたりのやり取りを見守る。
「アーサー達はなにをしているの?」
わたし達の手には荷物でいっぱいなので、すぐに答えがわかっていそうなのに、白々しく皇太子殿下がわたしを見て尋ねられた。
その皇太子殿下の視線を遮るかのようにして、プジョル様が立ちはだかってくださった。
「何って、貴方からの依頼のミクパ国のレセプションの料理の準備ですよ」
少し不機嫌そうにプジョル様が答えてくださった。
「そうなんだ。早速動いてくれているんだ。ありがとうね。よろしく頼むよ」
なぜか、プジョル様の後ろに隠れているわたしを覗き込みながら言われる。
わたしはゆっくりとカーテシーをして答える。
「早く帰れよ」
皇太子殿下と従兄弟だけあって、プジョル様にしか出来ない皇太子殿下への酷い扱い。
「アーサーは冷たいね。私達も用事は済んだし帰るよ。じゃ、またね。アトレイ夫人」
「チッ」
プジョル様が派手に舌打ちをされた。
いつも公爵家ご子息の優雅で品の良いプジョル様にしては苛立ちを隠そうともしない。
その舌打ち、絶対に皇太子殿下に聞こえていますよ。
そんな態度のプジョル様になぜか皇太子殿下はうれしそうにして帰って行かれた。
皇太子殿下は被虐癖ありですか?
まるで嵐のような時間でどっと疲れた。
わたし達3人は一瞬の出来事だったけど、皇太子殿下の対応で疲れたので楽しい気分が一気に吹っ飛び、さっさと王城に帰ることにした。
無言の中、歩いていると、遠くの方でわたしの目に馴染んだ見覚えのある男性が馬車から降りる女性をエスコートしている。
わたしが見間違えることなんてない。
セドリック様が若い女性をエスコートして、建物に消えて行かれた。
それもいままでわたしが見たことのないような正装のような格好をセドリック様はされていた。
プジョル様も気づいたようで咄嗟にわたしを見られた。