第一、犯人が近くにいるとしたら、本当のことを言うのはすごく拙い。ひょっとしたら、目の前の羽良野先生かも知れない。
犯人に僕が探偵のようなことをしていることは、当然なことだけど隠した方がいい。
ここは何も言わずにシラを切るしかない。
羽良野先生は混乱した様子だ。
羽良野先生の青白い表情を見て、僕は考える。だいたい解るけれど、裏の畑から人形の手足がでてきたのは、僕とおじいちゃんと母さんとお巡りさんの内田が見つけたからで、こうなると、そのことを一番に知っている大原先生の考えは、自然に僕が犯人か、それとも何かの間違いで本当にトイレに行ったのかのどっちかだ。つまり、気味が悪いと思われるし、疑われるけれど、この際は仕方がない。どちらにしてもバスの件があるから気にしなくてもいいくらいだ。
それに、僕が盗み聞きしていた場所のクラスの生徒たちは、話に夢中で僕が隣にいたのかは正確には解らないはずだ。
他の先生たちがステージの下へと、降りて来た。
「どうしました? 羽良野先生?」
6年生のクラスを担当している男の先生。真壁先生だ。スポーツマンで髪の毛は短めで、いつもジャージ姿でホイッスルを胸にぶら下げている。
「何でもありません。真壁先生。……石井君。後であなたの家に行ってお父さんとお母さんに相談したいことがあります。下校の時は私の車で送って行きますから。お母さんにはそう伝えますね」
羽良野先生の車は黄色い軽自動車で、僕を乗せるとハンドルをすぐに勢いよく回した。学校の駐車スペースに車体が少し斜めになっているからだ。羽良野先生は駐車が下手なんだと思う。
運転中は羽良野先生は無言で、その不安な表情からは隠すことができない不可解さからくる戸惑いが浮き出ていた。
僕の家の駐車場は二台の車が置けるけれど、羽良野先生は裏の畑の砂利道の端に車を置いた。車体が少し斜めのような感じがしたけど、羽良野先生はまったく気にしていない。
家の玄関から心配そうな顔をだしていた母さんがいた。当然、今の時間は父さんはいない。
羽良野先生は玄関へと歩くと、隣を歩く僕の顔を不可解性からくる戸惑いのために微かに覗いていたようだ。
「ごめん下さい。先程お電話で連絡をした歩君の担任の羽良野です」
立って母さんと挨拶をすると、羽良野先生は少し緊張気味な口調になった。