side―真希―
毎週日曜日
晴美ちゃんの旦那さんの康夫さんは、早起きして家の近所の川沿いを走る
それから子供達を連れて、ショッピングモールのスタバに来て子供達に泡立てホットミルクとマフィンを食べさせている間に、他の父親達と同じようにコーヒーを飲んだりタブレットを見たりする
ほら・・・
すぐに道行く女達が彼に気付いて話かけ出す、彼は笑顔でファンに応じ握手やサインをする
なんて素敵な人・・・でも愛する女性は晴美ちゃんただ一人
このショッピングモールの裏の高級住宅街に彼らの家があるのをあたしは知っている
その住宅街は有名人も住んでいる価値のあるタウンで、住人の大部分は会社の重役や、株式仲買人や、外交官や銀行員や俳優やスポーツ選手だ
彼と晴美ちゃんの家はその一番奥のオレンジの屋根の庭付きの可愛らしい家
ガレージには旦那さんのクラウンと、晴美ちゃんの可愛い赤い軽自動車が二台、庭には彼のマウンテンバイクと斗真君のキックスケーターがチェーンで木に固定されている
私はクレープを作りながら、首を長くして向かいにあるスタバの入り口に座っている彼を眺める
さすが晴美ちゃんの旦那さんだけあって子供の扱いが上手い、斗真君がクレヨンを落とすと拾ってやり、子供達が描いた絵は「ママ」に見せるためにちゃんと持って帰る
本当に絵に描いた通りの理想の夫婦、きっと夜は子供達が寝た後で二人でワインを飲みながら話し込んで愛を交わすのだろう
ずっと読書が趣味だったあたしは、妊娠してから出産や子育てについての情報をインターネットで探していた。その時に出会ったのが晴美ちゃんのインスタだ
インスタのプロフィール文には(晴美と二人の天使の日常※三人目を妊娠中)天使の羽根マークがアカウントだ、妊娠グッズや子育てに便利な情報を提供している
あたしは彼女が紹介する妊婦グッズを全て彼女のアフェリエイトリンクを踏んで購入している
だって彼女は本当に良い物だけしか紹介してないから、フォロワー思いの良い人だ、彼女のインスタは子育てや日々おしゃれな暮らしの写真の投稿やポエムが書かれている
そして旦那さんの康夫さんがニュースキャスターなんて一言も書かれていないけど、あたしはちゃんと嗅ぎ付けた。彼はテレビ局のニュースキャスターだ道理て二人供おしゃれなはずだ
そしてインスタの写真の撮り方からみても、彼女もテレビ関係の仕事だったに違いない、見せ方が上手い
あたしは今まで晴美ちゃんが投稿した1000枚以上の写真を全部スクショして、ファイルに入れてある
そして画像を拡大して隅々まで調べ上げてついに晴美ちゃんが子供達を庭でプール遊びをさせている画像と、幼稚園の制服から彼女の家を突き止めた
そして晴美ちゃんの近くに住みたくて、近所にアパートを借りてショッピングモールで仕事を探した
今では彼女の家の間取りまでしっかり把握している。お昼寝をしている子供達の寝室の様子からシーツの種類まで、まるで自分がそこに住んでいるようにありありと思い浮かべられる
斗真君のトイレトレーニングで写っていたトイレの壁紙・・・・トイレットペーパーの種類まで嗅ぎ付けて、今では同じものを使っている
正美ちゃんはちょっとおませさんで生意気な口を利くけど、彼女が今はまっているプロセカのゲームやお弁当箱やリュックは全部ディズニープエリンセスな事も知っている
そしてリビングには子供の成長の写真の記録や、二人の結婚式の写真が飾られているのも画像を調査して知っている
使っているシャンプー、歯磨き粉、洗濯洗剤、食器洗い洗剤、晴美ちゃんの服と同じものをSHEINでみつけて買った。先日彼女が履いていたマタニティジーンズを赤ちゃん本舗で見つけて同じものを買った。昨日食べたものも何をしていたのかも全部知っている
まさに彼女達は私の理想、あたしの「推し」だ
あたしは彼女になりたかった
仕事が終わって、あたしは晴美ちゃん家がある高級住宅街の道路を通り、いかにもこの住宅地に住んでいるような顔で歩行者用の地下道を目指す
住人しか使えない公共公園はフェンスが破れている所から(以前にあたしが切った)こっそり入って辺りに誰もいないことを確かめて、晴美ちゃんの家に裏道から近づく
晴美ちゃんの家に近づくと、下生えの間を抜けて大きな樫の木に登った。あたしは小さな頃から木登りが得意だ
この場所は晴美ちゃん家が良く見える、あたしのお気に利の場所だここからお庭の小さなブランコやリビングや寝室まで丸見えだ
今は女の子達の笑い声が聞こえる。正美ちゃんの近所のお友達が遊びに来てるのだ正美ちゃんがお庭に出てきてお友達とブランコで遊んでいる。斗真君も出てきて小さなおもちゃのお砂場で遊んでいる
あたしは太い枝に腰掛け葉っぱと一体になるポケットから、お店からくすねてきたクレープの中に入れるチョコバーを取り出してむしゃむしゃ食べる。今日初め口にする食べ物がこれだ
この木の上に何時間もこうやって座って晴美ちゃんと康夫さんを眺めていられる
今までも休みの日はそうしてきた、夏の日やバーベキューや幼稚園のママ友を呼んで遊んでいる所を眺めて来た。時々犬があたしを見つけて吠えるけど、あたしは木に成りきるのでそこから動かない
康夫さんが庭に出てきてハンモックに寝そべってゆらゆらしている
とっても可愛い
まるでドラマのような家族あたしはホウッ・・とため息をついた
暗くなってくると康夫さんが庭先のバーベキューコンロで肉を焼き出した。それを軒先で子供達がお皿を持って待っている
晴美ちゃんが二階の電気をつけた、ずっと木に座ってておなかもすいてきたのでそろそろ帰ろうと思った
遅くまで晴美ちゃんの家をのぞき見していたので、足元がよく見えなくなっている根っこや木の枝につまづきながらそろそろと進んで行った
通り過ぎていく車のライトの明かりに目がくらんだ、風が地面を揺らし落ち葉が脚の周りでダンスをした
「大丈夫・・・あなたを守るからね」
とあたしは自分のおなかに手を当てた
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