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―side晴美―



私は主婦には向いていないのかもしれない、掃除や料理が出来なくて康夫がイライラしているのは知っている


だから、らくちん家事方法を発信している家事系インスタグラマ―をフォローして、色々裏技を調べて挑戦してみるけど、決まって誰かの方法を真似てみても継続しないとその裏技は良い方向へ行かないとわかった




次に料理系のインスタグラマ―をフォローして、作り置きで日々の家事を楽しようと思ったけど、材料を買い込んだだけで結局時間が無くて作れず、食材を腐らせただけで終わってしまった



康夫が玄関を綺麗にして欲しいのはよくわかっている


でも一度掃除してもすぐに子供達がドロドロの靴で入ってきて、康夫が帰って来る頃にはドロドロになるのだ




洗濯物は毎日8キロの洗濯機を3回まわす。洗って、干して、取り込んで、畳んで、毎日康夫のワイシャツにアイロンを当てて・・・それだけで私は重労働に感じグタッと横になる




母親にも向いていないのかもしれない、妊娠初期はずっと流産を恐れていた。安定期に入れば、赤ちゃんがちゃんと育っていないとか、胎盤剥離とか障害児を心配した




そして生まれた後は、突発性乳幼児死亡事故や、インフルエンザや感染症の病気を心配してこの子達が咳をしたり、熱を出す度きっとこれからもピリピリするのだろう




歩き出せば、転んだり、骨を折ったり、引き出しを開けて指を詰めたり、コンロに触って火傷したり、咳き止めシロップを一気飲みするのではと気を揉むのだろう



幼稚園に通う頃には、他の子供と比べて我が子におかしい所は無いかとか20歳になればなったで、変な女に騙されたりしないかとか、免許を取れば車で事故をしないかとか、借金をしていないかとかを一子供を心配するのだ




本当に実生活は私が投稿しているインスタの内容と、かけ離れている。子供はのんびり育てようですって?よくもそんな事が書けるのものだなと自分で自分を笑う




でもその投稿には200のコメントがつき、正美と斗真を育てている私は、子育ての大ベテランとみなされ、みんなの憧れの対象なのだ




沢山寄せてくれているコメントの中でもアンチはいる


昨日は

「何もかも写真に撮られて子供が可哀想」


とか


「おばさんが若作りしている」



とかコメントを付けられた、そういったマイナスのものは残しておいてはいけない、なぜならこの投稿は育児雑誌の編集者も見ているからだ、彼らにそれが目に入ればアンチされているユーザーだとレッテルを張られ案件がもらえない



例えどんな意見でもユーザーは、コメントをする権利があると主張する者もいる、しかしそのコメントを残すか、削除するかは投稿主に権利があると私は考えている




コメント管理もスターインスタグラマ―の大切な仕事なのだ。なので私は今日もコメントチェックをしてアンチコメントは次々と削除していく、そう・・・私の庭には綺麗な花しか咲かせない




二階の端の未完成の子供部屋を眺める、ここは斗真と生まれて来る男の子の赤ちゃんのための部屋を作るために、電車のレールのカーペットと同じ柄のカーテンをネットで購入したのに、まだ段ボールに入ったままで開封すら出来ていない




斗真の赤ちゃん時代のベビー服も屋根裏に置いたまま・・・康夫に手伝ってと言っても平日何しているんだと言われるだけだ・・・




男の子のための完璧な子供部屋を作って、インスタにアップしたいのに何ひとつ思い通りに出来ていない、実家に帰った方がいいのだろうけど、もうすでに若くない母親は、斗真と正美の相手で疲労困憊している、これ以上甘えられない




正直に言えばいっそのこと生まれるまで入院でもして、この子が健康に生まれるまで寝て暮らしたい、最近では「なんとかならないかな?」と言った康夫の言葉を素直に聞いておけばよかったとさえ思ってしまう



まるで私の心を読んだかのように、お腹の彼が腎臓のあたりを強く蹴った



「痛いじゃない!」



私はおなかの子に怒鳴った、彼がまた蹴る



「もう一回蹴ったら承知しないからね!」





この子を産むことが康夫への愛の証だと、私は罪の意識からそう思い込んでいる、それには理由がある






あれは・・・そう・・・・この子が出来る前

私は康夫を一度裏切ってしまった






いいえ!決して裏切っていない、でも・・・心はどうだった?





お腹のエコー写真を手に取りじっと見る、何度打ち消しても記憶が蘇る





彼の名前は「里中和樹」・・・康夫と同じ職場で働いているキャスターで最近は彼の方がテレビに出始めている



ママ友の子供を私は誘拐する【第4回テノコン・ショートドラマ特別賞】

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