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#恋愛
#長編
最後で噛んだ。やっぱりこの体だとまだ上手く口が動かせない。普通六歳ってもっとちゃんと喋っていたような気がするのに。
「《片翼》ことですか」
「《片翼》こともですが、あとは他種族の作法が知りたいです。ルティ様の言動も」
「ルティ殿……」
本当は本人に気づかれずに借りたいけれど、手続きは基本的にルティ様なので、すぐにバレるだろう。
「《片翼》のことでしたら、私に聞いてくれれば良いのに……」
「人族の常識と他種族の常識や作法は、違うと思うのです。私はこの世界のことをちゃんと知りたいの」
「シズク」
これは前世の私の知識や経験が、この世界とどこまで同じなのか違いがあるのか。ルティ様の話に嘘は何かを知るためにも、第三者の公平な情報が必要なのだ。
ルティ様の知人や知り合いも、結局はルティ様に有利な情報の可能性がある。前世の義弟や彼らの幼馴染の存在がそうだった。
知らないということは、それだけで致命傷になりかねないと学んだ。特に異種族の場合は、顕著に出る。それこそ生死を別けることだってあるのだ。
「シズクがしっかりしている」
(十九歳なので大人ですからね)
中身は前世の二十歳+今世十九歳なので、結構な年齢の女性なのだ。
精神的には。
「確かに知識の偏りは視野を狭めるので、いけませんな。特に人族の《片翼》であれば、溺愛される理由や片割れが嫌う言動、愛でかたや番う方法も四大種族によって異なるようですし、そのあたりの知識を学び理解しなければ、三百年以上前の悲劇が訪れるやもしれません」
「そうですね……」
(三百年以上前?)
この世界でもずっと昔に、何かあったのだろうか。どの世界でも逸話や神話、伝承があるように、似たような話はあるのだろう。
「ああ、そうです。人族の《片翼》あれば無料でお渡ししている教材が幾つかありますので、それを読んでみたらどうでしょうか?」
「教材! 無料!」
この世界にも教材があるのかと驚いてしまった。どうやら前世の世界とは比べ物にならないほど、《片翼》への認知度や理解度は高いようだ。
「そんなものが出回っているのですか」
「ええ。東の大陸、シャンリーン王国でも同じ三百年ほど前に片翼を失ったことで、一国を滅ぼしたという悲劇が語り継がれていますからね。悲劇を繰り返さないためにも、と。《片翼保護ギルド》が設立したとかで、今度キャラバンがこの西の森にも来るとか」
(まんまなネーミング)
「ああ。そういえば入国審査の連絡が来ていましたね」
ルティ様曰くこの西の森に入るには、入国審査が必要だとか。この土地は他種族が多いため、入国時にいろいろなルールを説明されるらしい。
私、知らないのだけれど。
「私は審査してないよ?」
「私が質疑応答したので、問題ないと書類と定住の申請を出していますから、安心してください」
どうして教えてくれなかったのか。そう不満もあったが、六歳児に説明してもわからないと思ったのかもしれない。今はそれよりも本だ。
「さっきのお話の本も読みたいでしゅ」
「かしこまりました。では準備をしますので、少々お待ちくださいませ」
そう言ってミスターは、店の奥に消えてしまった。そういえば先ほどから、ルティ様が静かだ。視線を向けると、青ざめて小刻みに震えていた。
(なんで?)
「シズクに嫌われてしまう。蔑んだ目で、視界に入れるなって……。でも私はそれだけのことを……うぐっ」
恐怖、不安、絶望感。
それは私が見たかったものではあるのに、どうして私まで胸がギュッとするのだろう。《片翼》と言って、道具のように扱い、囲もうとする相手は碌な相手じゃないと思うのに。
でも、ルティ様の痛そうな顔は、私も痛くなる。この人が絶望するような顔はあんまり見たくない。
「ルティ様。私知りたいのです。この世界のこと、自分以外の種族のこと。じゃないと何も分からないまま、大人になりたくない」
「シズク……」
ルティ様は私をギュッと抱きしめるので、頭を撫でたら少しだけ落ち着いたようだ。やっぱり他種族のことはよく分からない。
モフモフの尻尾が私の腰に巻き付いてくる。モフモフ最高。
その後教材などは家に送ってくれるとのことで、私とルティ様は出来合いの料理を買い込んで家に帰宅した。なぜかルティ様が「最後の晩餐」など言っていたが、よく分からない。
「くう!」
「くぅん……」
(なんか増えてる!?)
家に戻ると四足獣のモフモフが一匹から二匹に増えていて、私にひっついて離れない。最初の子はベッタリで、もう一匹の子は私が流れると震えて泣きそうになる臆病さんだった。
なんだか今日のルティ様のよう。モフモフをいっぱい撫でると少し落ち着いたので、ベッドに寝そべりながら貰った教材を読み進める。
この世界の《片翼》の歴史、常識。ワクワクとドキドキを胸にページを開いた。
***
『人族の《比翼連理の片翼》とは、生贄である。神々がこの世界を去った後、世界の均衡を守るため四大種族──地底の管理は地馬族、異空間や空の防衛は鳥竜族、海を鎮める管轄は水竜族、そして最後に地上の繁栄を見守り調停役を天狐族が受けた。
そう三百年前まではそれが人族の常識であり、上位種族もまた人族を贄であり道具として認識していた。ただ人族の《比翼連理の片翼》、この場合は《高魔力保持者》側の認識は異なる』
「え?」
思わず声が漏れた。
続きのページを捲ると衝撃的な言葉があった。