テラーノベル
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#衝撃のラスト
山根利広
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「ふふっ」
話を聞き終わった後、虹雨が笑った。
「何かおかしいか」
「いや、そのな……由貴がバーテンダーってのが」
「悪いか! 一応どの仕事よりかは長く続いた方なんや。……世界的大流行性病気がなければ店も続いて今頃トップバーテンダーやったわ」
「由貴がバーテン……」
昔から由貴の性格を知ってる虹雨にとっては不恰好でそぐわない職種だと思っているのだ。
「たしかに……わたしも由貴さんにはバーテンダーは違うかなと」
「え、おじさんもそれ言う?」
店主がそう言うのだ。由貴はがっかししている。
「全く違う、という感じではなくて生活のために働いている感じがしましてね。一つ一つ業務的なこなし方をしてて……楽しさが見えなかったんですよ」
その言葉に由貴はハッとした。図星であった。確かに賄いが1番の目当てだった、と。仕事どおりにやっていれば賄いと給料はもらえる……あの頃を思い出すと作業やお酒などの名前を覚えるのも大変で楽しかったがいっぱいいっぱいだった。
「……厳しいこと言いましたね、すいません」
「いえ、おっしゃる通りです……さっきは世間の流れのせいと言ったけど多分続けててもうまくいかなかったと思う」
「私の昔の恋人もバーテンダーでして、彼も飲食店で働くのはほぼ初めてで覚えながら見よう見まねで仕事してたものの、人にものを作って食べたり飲んでもらうことが天職とわかった頃から余裕ができてきたんですよね」
「……天職……、おじさんはこのテーラーの仕事が天職ですよね」
店主はうなずいた。
「学生時代にわたしも人のこと言えませんが生活のためにデパートでアルバイトしてまして、配属されたのがスーツ売り場でして。在庫管理だけでなくてオーダースーツの採寸補助をすることになって……」
と店主が話し始めると由貴はじっと聞き始めるが、隣で虹雨が小突いた。
「由貴、こっからの話長くなりそうやな」
「聞いてあげようよ……ほら、話をさせてすっきり成仏のパターンかもしれないし」
本当に長い話が嫌いな虹雨。
「かもしれんけども、このあと事務所ないかなかんやろ。もっと違う方法で、それかまた後日……」
「失礼やろ、虹雨。とりあえず聞こう」
と、その後1時間近く店主のテーラーを目指した話からその後の軌跡を話し始めた。
まだ終わりが見えないうちに虹雨はもうこれはだめだと、由貴を再び小突いた。
「ええ話やん……」
気づくと由貴は泣いていた。虹雨はハァン? と呆れ返った。
「あ、そういえば!」
といきなり由貴は何かを思い出したのだ。
店主の話の途中で大きい声を出して話を遮る形になってしまった由貴。
「すいません、話の途中で」
「いえいえこちらも……私みたいな老いぼれの反省なんぞ。それよりなにかありましたか」
と反対に気を遣ってもらう始末。それは申し訳なく由貴は思うがある意味とばっちりのようで虹雨を睨むが虹雨は無視をする。都合が良すぎる。
それはさておき、由貴は自分のカバンの中から真空パックで包まれた塊を出した。封を開けると一気に大きくなり、中からシワシワのズボンが出てきた。
「お前その荷物の中にそれ入ってたん?」
「うん、貰い物だったし……いいパンツだったから捨てられなくてさ」
そう、あのとき店主からもらったパンツである。
店主はそのズボンを手に取ると
「持っていてくださったのですね。……別に捨ててもよかったのですよ」
「いや、そのあとお店でも履いてたし……持ってる服の中では高級品でして」
「そうだったんですね」
店主はどこかしらほっとしたような顔をしてる。
「これ、お返しします。ってこんなにシワシワで使い古してしまったのですが……きっとおじさんならこの再利用方あると思って」
「そうですねぇ、最終的には雑巾……」
「えええっ!!」
「冗談です……これは実は元恋人のものであった頃はあの時のあなたくらいにガタイが良くて。もう細くなったから着られないとどなたかに、と言われたんですけど手放したくないなぁという時にあなたと出会いましてね」
「すいません、そんな大事なものを」
「いいえ、大切に履いてくださってありがとう」
店主はほほえみ、そのズボンに向かって
「おかえり……」
そういうと彼はスゥッと消え、店の中も一気に何もなくなった。
「成仏された」
「由貴にもできるんや」
「優しい成仏のさせかたやな、誰かさんの説教成仏と違うわ」
と由貴が笑うと
「うるさい! あれはパフォーマンス。他のインチキ霊媒師と差別化させるためのや」
「あ、虹雨。自分でインチキゆうた」
「黙れ、インチキやない!」
「ほら、ムキになっとる」
「誰のおかげで生きてんのや」
「またそのやりとりか!」
2人はまた相変わらず喧嘩。しかし虹雨はハッとした。
「あかん! 遅刻や。所長に怒られてしまう」
「遅刻は虹雨のせいや」
「お前が入ったからやろ! この店に!」
と由貴がふと店の棚のところに写真たてがあるのに気づく。
若かりしき頃の店主と若い男性の写真。肩を抱き寄せあってる。
「そいや、恋人のことを彼、とかゆうてたな」
「なにしとる、早よ行くぞ!」
「はあい」
由貴はその写真の埃を払い元に戻した。
コメント
1件
みぅです🤍🥀 「おかえり」って、あのパンツに向けて言った店主の言葉がすごく沁みました。物を返すだけじゃなくて、そこにあった時間や想いも一緒に還すような優しい成仏の仕方で……由貴が泣いたのも分かる気がします。虹雨とのツッコミ合いも相変わらずで、ほっこりしたけど、最後の写真の埃を払う由貴の仕草がじんわりきました🌙