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うめぼっち

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#溺愛
うめぼっち

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うめぼっち

609
#ざまぁ
うめぼっち

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ホールからざわめきが聞こえた。続いて、誰かが息を呑む音。足音が響き、椅子を引く音がした。リアーヌは椅子から立ち上がると、仕切りの陰からそっとホールを覗いた。そこには、教会の査問官と騎士たちがいた。一部の騎士は、すでに二階へと向かっている。その中心に立つ男が、ゆっくりと周囲を見回していた。
「私は聖環騎士団副団長、クロード・フェルネ」
男はそう名乗った。リアーヌはかすかに眉根を寄せる。
クロード・フェルネ──三十代とおぼしき、長髪のこの騎士とは、過去にどこかで会ったことがあるような気がした。しかしどこで会ったのか、どうしても思い出せない。
クロードの声がホールに響く。
「──異端文書の配布および、不敬風刺図画拡散の容疑で娼婦マノン・ル・グランを、信仰調律院に連行する」
リアーヌの息が止まった。
マノン。つい先ほどまでここにいた《薔薇の乙女》。リアーヌに『燭影』を手渡した、年上の娼婦。不意に、リアーヌの脳裏に過去の記憶がよみがえる。ある日、何の前触れもなく、ヴィエル公爵邸に教会の査問官が訪れ、父に異端擁護の嫌疑をかけたときのこと。信仰調律院で受けた魔力検査、事実に反した罪状、結論ありきの裁判、そして父の処刑、母の自害、ここに連れてこられたときのこと──
心臓が早鐘を打つ。また、何かを奪われる──そんな恐怖に身が竦む。
「反体制煽動の証拠物品を押収する」
その言葉が聞こえた瞬間、リアーヌはテーブルの上を見た。
さっきまで読んでいた本の横に、広げたままの新聞がある。もし、見つかったら。リアーヌの指先が震えた。これは、マノンから受け取ったものだ。父の記事が載っている。父の無実を信じる者が密かに配布したものだ。これを奪われるわけにはいかない。そう思った瞬間、体が動いた。リアーヌは窓辺に戻ると、新聞を素早く手に取った。
折り畳む。そして、本の間に押し込む。リアーヌはソファに座り、膝の上にその本を置いた。何事もなかったように、ページを開く。本を読んでいるふりをする。けれど、視線は文字の上を滑るだけだった。
リアーヌの意識はすべてホールへと向いている。騎士たちの足音が近づいてくる。リアーヌは本を握る手に力を込めた。どうか、気づかないで。胸の奥でそう願いながら、リアーヌは本から視線を外し、ホールの方を盗み見た。
◇
クロード・フェルネの前に、ひとりの女が現れた。
マノン・ル・グラン。館でも指折りの人気を誇る《薔薇の乙女》だった。彼女の足取りは舞台女優のように優雅だったが、その目は笑っていなかった。
マノンは、目の前の男をまっすぐ見つめた。
「お呼びかしら。クロード、あなたが私を指名してくれるなんて」
「……私は客として訪れたわけではない」
クロード・フェルネは、感情の読み取りにくい顔で答えた。
その言葉を聞くと、マノンはほんの少しだけ目を細める。
「残念ね。あなたならいつでも歓迎だったのに……」
「私は常に、招かれざる客だ。巻き添えになって命を落とす者も、少なくないのでね」
クロードの口元に、冷たい笑みが浮かぶ。
マノンはしばらく彼を見つめ、それから両手を静かに差し出した。
「縛ってくれるかしら」
その冗談めいた言葉に、クロードの瞳がわずかに細くなる。
だが、彼は目を伏せただけだった。
「……それは私の役割ではない」
その直後、クロードの背後に控えていた騎士たちが動いた。
マノンの両腕を取り、抵抗する隙もなく拘束する。マノンの手首に拘束具が掛けられる。それでも彼女は騒ぐことなく、優雅な態度を最後まで崩さなかった。
◇
聖環騎士団は、教皇の護衛を務める儀仗用の騎士団だった。
教会の威信を象徴する、神聖な騎士たち──多くの民衆は、そのように信じている。しかし、それは表向きの姿にすぎない。彼らは、教会の影だった。異端の摘発、暗殺、諜報、拷問。教会のために汚れ仕事を請け負う部隊。神の名のもとに振り下ろされる、処刑の刃。それが聖環騎士団の、真の姿だった。
その副団長を務めるクロードが、リアーヌの前まで歩いてきた。
クロードは彼女を見下ろし、穏やかでありながら、有無を言わせぬ口調で言う。
「異端文書の押収に協力してもらいたい」
「そんなものは、持っていません」
リアーヌは、本を抱えたまま彼を見上げ、きっぱりと答えた。
自分の言葉が嘘だとは思わない。父の無実を訴える記事の記された新聞を『異端文書』などと呼ばせることはできなかった。
クロードの視線がリアーヌの腕に落ちる。
「その本は何だ? 見たところ、戦史の研究書のようだが……」
リアーヌは答えず、本を抱える腕にわずかに力を込めた。
クロードがすっと目を細める。
「元令嬢には似つかわしくない」
その言い方が、気に障った。父との思い出に土足で踏み込まれ、侮辱されたような気がした。しかもよりによって、教会の犬に──リアーヌはクロードをにらんだ。
「戦史の研究は、亡き父の影響です。それに……お客様との会話に役立つこともありますので」
「……貸せ。内容を確認する」
クロードは、リアーヌの敵意に動じることなく手を伸ばした。
リアーヌは本をしっかりと握ったまま、動かなかった。
コメント
1件
クロードの登場から一気に空気が変わって、緊張感がすごかったです…「縛ってくれるかしら」って笑顔で言うマノンがかっこよくて、でもその裏にある諦めみたいなものが切なかった。リアーヌが過去のトラウマと闘いながら必死に新聞を隠す姿、胸が締め付けられました。クロードの“元令嬢には似つかわしくない”って一言がもう…嫌な感じがにじみ出ててゾッとしました。続きが気になりすぎます✨