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第14話:善意の使者たち
「“やさしい魔王様”に感動して、世界を変えたいと思いました!」
そう叫んだのは、緑のマントを翻す青年・クルルだった。
赤毛のくしゃくしゃした頭、快活な目元に、やたらと光る銀のブローチ。
背中には“世界しあわせ同盟”と書かれた旗。
彼が率いる十数人の若者たちは、魔王城の門前で待ち構えていた。
「いやあ、あなたの活動を“広めよう”って仲間を集めまして!
“戦いをやめさせるために”ちょっとばかし街で訴えてきました!」
「……えっ、街で……?」
トアルコは目をぱちくりさせた。
後日、アステリアからの書簡が届く。
「“魔王思想に基づく改心要求”と称し、商人に土下座を迫った者が出た」
「“しあわせになるために謝れ”という言葉が、逆に市民の混乱を招いている」
「……あわわわわ……!」
トアルコは手紙を抱え、床にしゃがみこんだ。
リゼがため息をつく。
「……広まると、歪む。善意であっても、行きすぎれば“圧力”だ」
「ぼく……そんなつもりじゃ……誰かに謝らせるなんて……」
城内の一室で、トアルコはクルルと面会する。
「ごめんなさい……! そんなつもりじゃなかったんです!」
クルルは本気で反省していた。
「でも、魔王様の姿を見て“謝るって正義だ!”って思っちゃって……」
「謝るのは、“自分が誰かを大切に思っている”からすることなんです。
“誰かに謝らせるため”にやったら……それはもう、ただの暴力です」
トアルコの声はやさしく、それでいて震えていた。
「……だから……あなたは、間違えた。でも、それを受け止めて、やり直せるって、信じてます」
クルルはしばらく黙ってから、深く頭を下げた。
「……魔王様。本当に、あなたは、魔王なんですか?」
「えっと……いちおう、“種”には選ばれてまして……」
広間の外で、ゲルダが小さく笑っていた。
「トアルコ。お前の“やさしさ”は、伝染るぞ。ゆっくり、確実にな」
その日から、“世界しあわせ同盟”は、強制ではなく「寄り添う手紙」運動に変わった。
「今日、誰かに“ありがとう”って言ってみよう」
そんな簡単な言葉から、世界が少しだけ丸くなる気がした。