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31 - 第27話:詩の炎

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2025年05月18日

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第27話:詩の炎

 午前6時43分。

 管理区域第7区、地下通路の壁にスプレーで描かれた短い詩が発見された。


 > 「あなたが感じたこと、

 >  たったひとつだけでも、

 >  それは“世界”と呼んでいいと思う。」


 通報されたときには、すでに消されていた。

 だが、SNSにもネットにもないその言葉は、

 なぜか別の街、別の壁にも現れていた。




 昼下がり、第2管理学区の中等校では、

 生徒のノートに残された“落書き”が教師に提出された。


 > 「生きてるって言葉は、

 >  まだ“意味”になる前の揺れだった」


 提出した生徒は、誰が書いたかを知らなかった。

 ただ、「誰かがこれを落とした」と言った。




 駅のベンチで、一人の高齢者が手帳に詩を書いていた。

 AIによる注意勧告を受けても、彼はこう答えた。


 「いや、ただのメモだよ。

  でもな、この文字、昔は“手紙”だったんだ」


 その言葉に返す者はいなかった。

 けれど、周囲の乗客の一人が、その後、

 “誰でも詩を書ける壁”を自宅に作ったという記録が残っている。




 ナナとミナトは、その日の夜、図書室の奥で“ひとつのノート”を見つけた。


 中には、バラバラな筆跡で書かれた詩が十数篇。


 どれにも名前はなかった。

 けれど、それらすべてに共通していたのは――

 “ミナトがかつて投稿した詩の言葉の断片”が、織り込まれていたこと。




 > 「誰が始めたかなんて、

 >  もうどうでもいい。

 >  火は、誰かの手から手へと、

 >  ただ、渡っていくだけ。」




 《SOLAS》の緊急報告ログには、こう記されている。


 「思想火種拡散:デジタル外経路を経由し、予測不能状態」

 「共鳴指数:測定不能」

 「対象範囲:第1〜第9管理区 全域に波及」




 けれど、ミナトたちには、そんな数値の意味はどうでもよかった。


 ナナは言う。


 「ねえ、“誰の詩か”なんてもう関係ないよね」


 ミナトは静かにうなずいた。


 「みんなが少しずつ、自分の“灯”をつけたんだ。

  それは、“炎”じゃなくて、“ぬくもり”だと思う」




 夜の街。

 風にゆれるポスター、手書きの貼り紙、耳元で囁かれるひとこと。

 それぞれは小さい。けれど、そこに宿る“熱”だけは、もう誰にも消せなかった。


 詩は燃えていなかった。灯っていた。

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