テラーノベル
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昨夜の雨が嘘のように晴れ渡った空が、かえって恨めしかった。
腫れた瞼を少しでも隠したくて、私はいつもより俯き加減で部室へと向かった。凌先輩に会うのが怖い。でも、マネージャーの仕事を投げ出すわけにはいかない。
「……あ」
部室の裏でドリンクの準備を始めようとすると、そこにはすでに遥がいた。
気まずさに足が止まる私を、遥は少しだけ見つめたあと、ふいっと視線を逸らして私の手に冷たいジュースの缶を押し付けた。
「……ほら。……目が腫れてんぞ、お前」
「あ……ありがと……」
「別に。……昨日言ったこと、忘れてねーからな」
それだけ言い残して、遥は足早にコートへ向かった。ぶっきらぼうな優しさが、今の私のボロボロな心には痛いほど染みた。
「……おはよう、紗南ちゃん」
その時、背後から声をかけられた。
振り返ると、そこには凌先輩が立っていた。いつも通りの爽やかな笑顔……に見えたけれど、その瞳はどこか泳いでいて、私と目が合うと、すぐに困ったように細められた。
「おはよう……ございます、先輩」
「昨日は……その、大丈夫だった? 急に走って行っちゃうから、心配で」
先輩の声には、明らかな「気まずさ」が混じっていた。
振った側としての罪悪感と、大切にしたいと言いながら泣かせてしまった戸惑い。私を見つめる先輩の視線は、昨日までの「余裕あるお兄ちゃん」のものではなくなっていた。
「……すみません。もう大丈夫です。仕事、戻りますね」
私が頭を下げてその場を去ろうとした瞬間、先輩が私の腕を軽く掴んだ。
「紗南ちゃん、あの、僕は……今まで通り、君とは仲良く……」
言いかけた先輩の言葉は、コートから戻ってきた遥の鋭い視線によって遮られた。
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