テラーノベル
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遥が私と凌先輩の間に割り込むように立つ。先輩の手が、私の腕から離れた。
「兄貴。練習、始まるぞ」
遥の低く冷ややかな声に、凌先輩がたじろぐように息を呑んだ。
そのまま、遥は一度も後ろを振り返らずに私を連れてコートへと向かう。
練習が始まっても、部内の空気はどこか重苦しかった。
いつもなら中心で皆を鼓舞する凌先輩が、今日はどこか集中力を欠いている。簡単なミスをするたび、周囲に困惑が広がった。
「兄貴、今日キレがねーぞ。しっかりしろよ」
コートチェンジの際、遥がわざとらしく、冷たく先輩に言い放つ。
先輩はタオルで顔を拭いながら、低く掠れた声で答えた。
「……分かってるよ。少し、考え事をしていただけだ」
その視線は、コートの隅でボトルを整理している私に向けられていた。
私が遥と目が合って小さく頷いたり、遥が私の差し出したタオルを当たり前のように受け取ったりするたび、先輩はあからさまに不機嫌そうな顔をして、ラケットを握る手に力を込めている。
(……どうして、そんなに怒ってるの?)
「妹」だと突き放したはずなのに。私と遥が一緒にいるのを見る先輩の目は、今まで見たことがないくらいトゲトゲしていて、私への気まずさ以上に、何かを激しく苛立っているように見えた。
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