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俺は『フルブースト』を発動し、いつもと同じように八相の構えをとる。
魔神との距離は三十メートルほど。倒すためには接近して魔神の魔石を叩き切る。ただそれだけ。
魔神の相手に俺程度がまともにやって勝てるはずがない。
互角にやりあえて一、二回と数回の攻防のみ。
理由は『フルブースト』の時間制限。
『フルブースト』は制御が効かない。
電源のオンオフしかできない。
体が負荷に耐えられないんだ。
だから、魔神の意表を突き、体勢を崩し一撃を叩き込まなければいけない。
だが、奴に完全に意識されているので不意打ちは不可能。
ならば隙を自分で作らなければいけない。
「ふぅー」
俺は大きく深呼吸をし、目に魔力を集中させ、『見切り』を発動。その場から魔神の方向へと駆け出した。
「フ……『ダークバレット』」
魔神は俺の行動に対して鼻で笑い掌をむけてくる。
魔神は魔法発動が早い。
一瞬で構築して複数の闇魔法の弾丸を放ってきた。
だが、俺はあえて発動を見送る。
魔神の体勢を崩すには『スナイプ』を使う必要がある。
だが、今魔神との間合いは約二十メートルと遠すぎる。
もう少し接近する必要がある。
俺は効力が切れそうになっている『見切り』を再び発動、複数向かってきている『ダークバレット』が直撃しないよう、威力の隙間を特定し突っ込む。
ドカン!
その場で爆風が広がる。
「ナ?!」
「…く!」
痛い。
焼けるように痛む。
体勢が崩れそうになるが踏ん張り足を止めることなく突き進む。
威力はかなりのものだったと思う。カインさんに放った時と同じ威力かもしれない。
たが、俺は走っていたことにより爆風とは逆方向に力の作用があったため、飛ばされることはなかった。
今の攻防で魔神との間合いは二十メートルを切った。
今ので多少失速はしたものの、射程圏内。
「?!、『ダークシールド』」
きた。
魔神は俺の突進に焦ったか、即座に防御魔法を展開するため、魔法陣を用意する。
現在魔神との距離は十五メートルほど。
魔法陣には乱れが生じている。
このことに気がつけて本当によかったと思う。それがなければ勝機は見出せなかったであろう。
俺は即座に眉間に魔力を集め魔法を準備し奥の手の魔法準備をする。
『スナイプ』
俺は『見切り』を発動させ、魔法陣の乱れを捉えるため、狙いを定める。
即座に『スナイプ』の発動準備を終了させる。
まだだ。まだ、ギリギリまで引きつけろ、距離を詰めろ。
せっかく掴み取ったチャンスを無駄にするな。
ここで失敗したら全てが水の泡になる。
魔神との距離は十二メートル
そして未だに魔神の魔法構築は終了していない。
俺は『見切り』で魔神の展開する魔法陣を観察し続ける。
魔法陣の構築完了まで六割。
まだ、行ける。少しでも間合いを詰めろ。
魔法陣の構築完了まで七割。
我慢だ。我慢
魔法陣の構築完了まで八割五分。
実際の時間では一秒にも満たないが体感では数秒。
あと、少し、焦るな。
魔法陣の構築完了まで九割
あと、少し。
魔法陣の構築完了まで九割五分
ここだ!
魔法陣の刹那の乱れをーー。
ーー撃ち抜く。
「?!」
魔神は声を発しなかった。
目の前で何が起こったのかわからなかった。
『スナイプ』という魔法はこの世界では存在しなかった魔法。魔神が封印される前の時代にも。
この世界の魔法戦に置いて発動速度が勝敗を左右する。
魔神自身もそう認識していたはず。
そして、魔神は魔法発動戦においても絶対の自信を自負していた。
その油断こそが俺の見出した勝機。
焦り思考能力を停止させる。混乱は戦闘では命取り。
現状、打開するには時間が足りなすぎる。
「はぁー!」
俺は魔神が体勢を崩した瞬間声を上げてさらに間合いを詰める。
距離にして五メートル。
俺は『フルブースト』の状態でさらに左足に魔力を集中させ、『部位強化』を発動させる。
そして距離に達した瞬間、左足で地面を思いっきり蹴る。筋肉や骨が悲鳴をあげるがこれが最初で最後の勝機。
本気で魔神の赤く光魔石に斬りかかり、残心した。
パリン!
その場で何かが割れる音がする。
俺は『フルブースト』の副作用で気を失いそうになるも、後ろを振り返る。
魔神という強者相手に俺が出来たのは数回の攻防、戦闘時間にして2、3秒だけであった。
「ナ……何故……」
俺はそれを確認した瞬間、当初の目標であったサリー=クイスを救うという目標が達成できたことがわかり、そこで意識が途切れた。
魔神は魔素となり、割れた赤い魔石だけがその場に残ったのだった。