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夏の陽射しは容赦なく、空気の中には草の青さと土の香りが入り混じっていた。畑はアイリスの力によって驚くほどの早さで実りを迎えた。芋の収穫に続き、今度は彼の地にしか存在しないとされる「ポノの実」の季節がやって来たのだ。

ピンク色の葉を持つポノの木には、枝ごとに多くの実がぶら下がっている。丸みを帯びた形は桃にそっくりだが、表皮はどこか透きとおるような淡いピンク色で、夏の太陽を浴びて輝いて見える。その見た目からして甘そうで、だが近づくだけで濃密な香りにむせ返りそうになる。

──悪魔のような甘さ。

元々辛い実を改造したものだが食べればすぐに理解できるものだった。

「、、はぁ、また面倒な収穫だな」

 フェムルは木の下で汗を拭いながら、しぶしぶと枝を見上げていた。彼は相変わらずやる気があるのかないのか分からない態度だ。しかし結局のところ、誰よりも早く木に登り、器用に実をもいで籠に入れていく。

「文句を言うなら、やらなくてもいいですよ」

下から毒舌を飛ばすのはアイリスだ。彼女は別の籠を持ちながら、落ちてきた実を受け止めている。

「お前が上に登ったら、木ごと折れるだろ」

「失礼ですね」

「事実だ」

いつもの小競り合い。けれどその声の調子には、妙な安心感があった。互いに遠慮がないからこそ、領民たちの前でも自然と場が和らぐ。

それに他の人が登って怪我をしないように高い所を重点的に取っている。

――心配性だこと

子どもたちは歓声を上げながら落ちてくるポノの実を拾い集め、大人たちは山ほどの籠を運び、広場に積み上げていく。収穫の喜びと、未知の甘味への期待が村全体を包んでいた。

そして、その日の午後。

広場の片隅で、いよいよ「お菓子作り」の試みが始まった。


___


「まずは芋を蒸して、しっかり潰します」

鍋から立ちのぼる湯気の中で、領民たちに手順を示した。

収穫したばかりの芋は土の香りをまとい、皮を剥けば黄金色の実がほくほくと顔を出す。木の棒で潰すたびに、むちっとした音が響き、湯気とともに甘い香りが漂う。

「ここに、潰したポノを少し加えます」

籠から取り出した実を手で割ると、鮮やかな桃色の果肉が現れた。指先に触れただけでとろりと崩れ、甘ったるい芳香が辺りに広がる。

「、、なんだ、この香り」

「すごい、、今にも齧りつきたい」

領民たちは思わず息を呑む。まるで蜜を凝縮したような甘さが鼻を刺し、喉を震わせるのだ。

それを潰した芋に混ぜ込むと、芋のほのかな甘味とポノの強烈な甘さが絡み合い、桃色がかった団子の生地が出来上がっていく。

「次は、団子に丸めて湯に落とします」

子どもたちが興奮気味に手を伸ばし、ころころと小さな球を作っていく。

鍋の中で団子が踊り、やがて浮かび上がると透明な湯気に包まれて輝きを増した。

「仕上げに、蒸した芋の粉をまぶすと、、」

皿に盛られたのは、ほんのり桃色の芋団子。表面はつややかで、熱気とともに甘い香りが漂う。

「完成です」

試食の瞬間、領民たちの目が見開かれた。

「、、甘い!」

「なんだこれは、砂糖も使ってないのに、、」

噛んだ瞬間、芋の素朴な甘さがふわりと広がり、続いてポノの果汁が舌を包み込む。あまりの濃厚さに、思わず笑みがこぼれるほどだ。子どもたちは夢中で団子を頬張り、大人たちも驚きながら次々と皿を空にしていった。

「おい、もうないんだが」

フェムルが不満げに言えば、横からアイリスがすかさず返す。

「フェムル様、最初に三つも食べたでしょ。図々しい」

「別にいいだろ」

「はいはい、他の人と分けて食べていください」

そのやり取りに周囲は笑い声を上げ、収穫祭さながらの賑わいとなった。


___


夕暮れ時、広場には食べ終わった皿が山のように積まれ、満ち足りた空気が漂っていた。

「これは、、良いな」

俺は思わず呟いていた。

甘味という贅沢は、今の時代そう多くはない。砂糖は高価で庶民の口にはほとんど入らない。だが、このポノと芋があれば、安価で、しかも他にない甘味を提供できる。

領民の顔には笑顔が広がり、明日の糧を超えた「楽しみ」を手に入れた喜びが滲んでいた。

収穫した実の半分以上は、大人たちの手で仕分けされていく。籠に詰め、保管庫へ運び込まれる。これはアイリスが使うといっていた。何に使うのかはわからないが、、

残りを領民が日々楽しみ、子どもたちが育ちゆく糧とする。

その判断を皆が自然と受け入れるほど、未来への期待は確かなものとなっていた。


___


その頃、アイリスは人知れず部屋で、また別の作業をしていた。

小さな壺に潰したポノの果肉を入れ、薬草と花びらを混ぜ、火にかけて煎じている。

甘さの奥に潜む、何か別の可能性を見つようとしているのだ。

彼女の瞳は真剣で、その小さな背中からは、未来を切り開こうとする強い意志が伝わってきた。

「、、悪魔のような甘さ、か」

俺は彼女の背中を見ながら呟く。

けれどその悪魔は、きっとこの地を救う天使にもなり得る。


こうして、芋とポノを掛け合わせた最初のお菓子──ポノ芋団子は生まれた。

それは単なる甘味以上の意味を持ち、この領地に希望と未来を与える特産品への第一歩となったのだった。

滅びの地に咲く一輪花

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