テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
204号室。
俺は。
部屋の中央に立っていた。
目の前には。
凛。
その隣に蓮。
父さんと母さん。
そして美咲。
ずっと探していた答えが。
今。
全部ここにある。
「凛」
俺は口を開いた。
「最初から聞かせて」
「何も隠さずに」
凛は。
静かに頷いた。
「分かった」
「まず」
「204号室について」
壁に映像が映し出される。
2009年。
古い病院。
その中に。
三つのベッド。
そして。
三人の赤ん坊。
「ここで」
「悠真と蓮が生まれた」
俺は。
画面を見る。
「じゃあ」
「凛も?」
凛は。
首を横に振った。
「違う」
「凛は」
「その後に加えられた名前」
「……名前だけ?」
「そう」
「この部屋で」
「Rの計画が始まった」
父さんが。
静かに口を開く。
「俺は」
「最初のRだった」
俺は。
父さんを見る。
「どうして?」
「選ばなければならなかった」
「誰を残すか」
「誰を守るか」
「誰を切り離すか」
「そんなもの」
「父さんが決めたの?」
父さんは。
目を伏せた。
「そうだ」
「でも」
「俺自身も」
「Rのルールから逃げられなかった」
その言葉で。
俺は気づいた。
Rは。
誰か一人の悪意じゃない。
人間を。
選ぶ側と。
選ばれる側に分ける仕組み。
その仕組みそのものだった。
「蓮は?」
俺が聞く。
蓮が。
答える。
「俺は」
「お前を守るために」
「Rの中に残った」
「だから」
「俺は死んだことにされた」
「悠真を普通に生かすために」
俺は。
何も言えなかった。
「じゃあ凛は?」
凛が。
一歩前に出る。
「私は」
「Rから切り離された」
「母さんが」
「私を守ったから」
母さんの目に。
涙が浮かぶ。
「凛まで」
#狂愛
柏木さくら
3,861
イキリ火の玉
42
リユ
232
榎本くもり
175
「Rに選ばせたくなかった」
「だから」
「私は逃がした」
美咲が。
静かに聞く。
「私のお母さんも?」
凛が頷く。
「協力してくれた」
「だから」
「私は生きていられた」
俺は。
一つの疑問を口にする。
「じゃあ」
「なんで」
「俺に近づいた?」
凛は。
少しだけ笑った。
「あなたが」
「応募したから」
「……」
「正確には」
「応募させられた」
「え?」
凛が。
俺のスマホを見る。
「あの日」
「あなたのところに」
「最初のメッセージを送った」
俺は。
あの日を思い出す。
知らないアカウント。
突然届いたメッセージ。
そして。
応募。
「でも」
「どうして俺だった?」
凛は。
静かに答えた。
「Rは」
「ずっと」
「あなたを監視していた」
「父さんが」
「最初に選んだから」
俺は。
父さんを見る。
父さんは。
何も言わない。
「だから私は」
「あなたを」
「Rの中へ入れた」
「そして」
「Rのルールそのものを」
「外側から見せた」
俺は。
これまでのことを思い出す。
参加者。
番号。
ルール。
警告。
恐怖。
誰かに決められる選択。
「つまり」
俺は。
ゆっくり言った。
「俺が応募したことで」
「Rの仕組みを」
「俺自身が知ることになった」
「そう」
「そして」
凛が。
続ける。
「最後に」
「あなた自身に」
「選んでほしかった」
「何を?」
「Rになるか」
「Rを終わらせるか」
部屋が。
静まり返る。
俺は。
赤いRの文字を見る。
ずっと。
俺を追いかけてきた文字。
「俺は」
「Rにはならない」
凛が。
黙って俺を見る。
「誰かを選んで」
「誰かを切り捨てるなんて」
「そんな仕組み」
「俺が終わらせる」
父さんが。
ゆっくり顔を上げる。
「それがお前の答えか」
「うん」
俺は。
頷いた。
「誰も選ばない」
その瞬間。
モニターのRが。
消えた。
一つ。
また一つ。
画面が暗くなっていく。
そして。
最後に表示された文字。
**R SYSTEM**
その下に。
**TERMINATED**
凛が。
小さく息を吐いた。
「終わった」
俺は。
204号室を見渡す。
長かった。
本当に。
長かった。
最初は。
ただ金が欲しかった。
少しだけ。
楽をしたかった。
だから。
応募ボタンを押した。
たった一度。
指で押しただけだった。
でも。
そこから。
全部が変わった。
友達。
家族。
過去。
そして。
自分自身。
俺は。
スマホを見る。
応募した日の画面。
そこに。
あの日と同じ言葉が残っていた。
**『その応募、死刑です。』**
俺は。
その文字を見つめる。
ずっと。
俺は。
この言葉を。
「応募したら人生が終わる」
という意味だと思っていた。
でも。
違った。
本当に死ぬのは。
人間じゃない。
自分で考えること。
自分で決めること。
自分の人生を。
自分で選ぶこと。
それを。
誰かに奪われた瞬間。
人は。
自分の人生を生きられなくなる。
俺は。
スマホの画面を閉じた。
「帰ろう」
美咲が。
頷く。
「うん」
蓮も。
笑った。
「今度こそ」
「普通に生きろよ」
俺は。
笑う。
「兄貴もな」
母さんが。
泣きながら笑う。
父さんは。
何も言わなかった。
ただ。
204号室を見つめていた。
俺たちは。
部屋を出る。
扉が。
ゆっくり閉まる。
俺は。
最後に一度だけ。
振り返った。
そこには。
もう。
赤いRはなかった。
ただ。
白い壁だけが残っていた。
俺は。
歩き出す。
あの日。
応募ボタンを押した自分へ。
今なら。
一つだけ言える。
あの応募で。
人生が終わったんじゃない。
あの日から。
自分の人生を。
自分で取り戻す物語が。
始まったんだ。
だから。
もう。
誰にも。
選ばせない。
俺が。
俺の人生を。
選ぶ。
朝の光が。
街を照らしていた。
長かった夜が。
終わる。
そして。
俺は。
前を向いた。
**『その応募、死刑です。』**
――それは。
人生を終わらせる言葉じゃない。
誰かに人生を奪われないために。
自分で選べ。
そういう。
最後の警告だった。
完。
コメント
1件
「完。」と書いてあったので、これで本当に最終回なんですね。お疲れ様でした、るしゅさん。 『応募ボタンを押した自分へ』のあの呼びかけ、すごく響きました。あの日の応募は「人生を終わらせる選択」じゃなくて「自分で取り戻す始まり」だった——その種明かしが、ここまでの全話を一気に染め変えるようで美しかったです。Rシステムが「選ぶ力を奪う仕組み」だったからこそ、最後に「誰も選ばない」と宣言した主人公の選択に、構造としての完璧な決着を感じました。204号室に赤いRがもうない、ただ白い壁だけ——あの静けさが、長い夜明けのようで胸に残りました。