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エレベーターを降りて真っ直ぐにこちらへ歩いて来る姿に、目が釘付けになる──。
「じゃあ、行こうか?」
「はい」と頷いて、先に行く蓮水さんの後を付いて行く。
ピンストライプのスーツを纏った凛々しい長身の立ち姿は、後ろからでも渋くクールに決まって見えて、
(……”ダンディ”なんて言葉は、この人のためにあるんじゃないのかな……)
とまで、思えてくるようだった──。
今日のカフスボタンはオニキスみたいで……黒のスーツカラーに合わせてるのかな? それと袖口から見え隠れしている黒の太い革ベルトの腕時計も、トータルでコーディネートしているんだろうか……と、ついついその着こなしを観察していたら、
「……ところで、今まで何をしていたんだい?」
と、不意に顔が振り向かせられて、心臓がどくんと跳ね上がりそうになった。
「あ、あの、イラストを、描いていました……」
ぶしつけなくらいに見ていた視線をどぎまぎと逸らして、しどろもどろで答えると、
「……イラストを?」
と、再び興味を持った様子で、立ち止まって聞き返された。
「はい、その……社員の方々を、絵にしていまして……」
「社員を? いいな…ぜひ、見せてもらえないだろうか?」
到底断ることは敵わないような、熱心な眼差しでじっと見つめられて、「はい、軽く色付けをしたラフなスケッチですが……」と、照れくさくて仕方のないような気持ちで、伏目がちに応えた。
──道路を挟んだ会社の向かいにある、名の知れたホテルのロビーラウンジで、スケッチブックを広げて差し出した。
ページに目を落とした蓮水さんが、
「……よく描けているな、うまく特徴をとらえていて。これは、広報部の連中だな……みんな、いい顔をしている」
ふっと口元をほころばせた。
「会社の居心地が、いいからではないでしょうか…きっと」
「それは、私が褒められていると思っても、いいのかな?」
茶目っけたっぷりにそう口にして、嬉しげに目を細める。
……そんな表情のひとつにさえ、どうしようもなく惹かれてしまいそうで……。
「……何て言ったらいいのか、あの社員さん達の雰囲気は、会社のイメージそのままなように思えて」
絵を描きながら感じていた、ありのままを伝えると、
「…そうか…良かった…」
蓮見さんが呟いて、僅かに照れたような笑みを浮かべた。
いい笑顔──見ているだけで、知らず知らずのうちに魅了されてしまいそうで、
こんなにも素敵に笑うなんて、罪作りなんじゃないのかなとも感じた……。