コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
「なぁ、このスケッチもらってもいいかな?」
「でも、雑に描いたようなものですから……」
「だから、いいんだ。雰囲気があって」そう言うと、「その場の空気感が伝わる、あたたかな絵だよ」描かれているイラストの表面を、手の平でさらりと撫でた。
「……もらっても、いいだろうか?」
絵の中の社員さん達を慈しむような優しい眼差しに、それ以上は拒む必要も感じられなくて、「はい…」と、頷いて返した。
「ありがとう」
蓮水さんがスケッチブックからページを切り離して、持っていたカバンから出したクリアファイルに、折り目を付けないよう丁寧にしまった。
私の絵をまるで宝物のように大切に扱ってくれることに、うれしみがじわりと込み上げる。
「……もう、何か食べただろうか? 私は会議の際に食事は済ませたが」
メニューを開いた蓮水さんから尋ねられて、
「ええ、ついさっきビュッフェの方で……」
と、自分もメニューを覗き込んで応えた。
「ならデザートにケーキでも食べないか? ここは、ケーキも美味いから」
「ええ…でも…」
返事に困って、口をつぐむ。有名ホテルのカフェラウンジだけあって、メニューにあるケーキはどれも美味しそうだったけれど、さすがに高価でもあった。
さっきもプチケーキを食べたこともあり、断ろうかなとも思う。
「絵のお返しだ。遠慮なく食べていいから、どれでも好きなものを食べなさい」
そう言われると、断り切れなくて、
「……それじゃあ、レアチーズケーキをいただきます」
と、伝えて、メニューを閉じた。
「ではティーセットで、レアチーズケーキとショートケーキを」
ウェイターを呼んでオーダーをする蓮水さんに、(ショートケーキって?)と、はたと首を傾げた。