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第九話「禁忌なる呼称の咎」
🔪アリアの終幕
暗い部屋の中で、アリアは静かに座っていた。
長い灰色の髪は乱れ、黒いワンピースには血の跡がこびりついている。
顔は相変わらず青白く、まるで生命を感じさせない人形のようだった。
だが、彼女の瞳には確かに”満足”が宿っていた。
「……私はもう”完成”した。」
彼女は、自分の手を見つめる。
乾いた血の跡。
最後の標的、”作り主”を殺した証。
「殺したのに、何も感じない。」
それが、彼女の”完成形”だった。
🔪スケアリーの実況「禁じられた味」
「おお、これは素晴らしい。”完全に無味”だ。」
スケアリーは、楽しげに紅茶をすすった。
「通常、殺人には”後味”が残る。”罪悪感”だったり、”快楽”だったり。”恐怖”だったりねぇ。」
「でも、アリアは”何も感じない”。”無味”。”純粋なるゼロ”。」
彼は、ワインを味わうように深く息を吸った。
「……うん、これは”究極の静寂の味”だねぇ。」
彼は、にこりと笑う。
「この”無味”を、どう料理するか……ここが料理人の腕の見せどころさ。」
🔪アリアの一言、禁忌を犯す
「……ねえ、スケアリー。」
アリアが静かに口を開いた。
「あなたって、”恐怖の王”なの?」
次の瞬間だった。
バンッ!!!
スケアリーの手が、テーブルを叩き割った。
紅茶のカップが宙を舞い、砕け散る。
空気が凍りつく。
「は?」
低い、底冷えするような声。
スケアリーの表情が、異常なほど静か だった。
「今……なんつった?」
彼は、アリアをまっすぐに見据えた。
「”王”? 俺が?」
アリアは、一瞬息を呑んだ。
ユリウスも、何か言おうとしたが、止めた。
スケアリーの気配が、異質すぎた。
「おいアリア。」
スケアリーは、ゆっくりと歩み寄る。
「俺を”王”なんていうな。」
彼の目が、まるで闇そのもののように深く沈む。
「俺は”支配者”じゃねぇ。”君臨”もしねぇ。”統治”もしねぇ。」
「俺は、”スケアリー”だよ。」
彼の声には、異常な静けさが宿っていた。
🔪スケアリーの怒り、臨界点
アリアは、何かを言いかけた。
だが――
次の瞬間、スケアリーの手がアリアの喉元を掴んでいた。
「……ッ!!」
アリアの足が床から離れる。
「”恐怖の王”? ふざけんなよ……そんな”安っぽい肩書”、俺に似合うと思ってんのか?」
スケアリーの顔が、ゆっくりと歪む。
笑っている。
だが、それは異常なほど狂気に満ちた笑みだった。
「”王”ってのは、支配するためにいる。”恐怖”を統率するためにいる。」
「でもなぁ、俺はそんな”つまんねぇ役職”、いらねぇんだよ。」
「俺はただ、”恐怖の最高の形”を見たいだけなんだよ。」
アリアの顔色が青ざめる。
彼女は今まで、”恐怖を感じたことがなかった”。
だが、今――
“本能が恐れている”。
スケアリーという存在を。
「お前……”間違った”んだよ。」
彼は、にぃっと笑う。
「俺のことを、”スケアリー”以外の何かに例えた罰だ。」
次の瞬間――
スケアリーは、アリアを床に叩きつけた。
🔪スケアリーの食レポ「恐怖の名前」
「うん……最高の味になったねぇ。」
スケアリーは、地面に倒れ込んだアリアを見下ろした。
彼女の瞳には、初めて”恐怖”の色が浮かんでいた。
「恐怖には”名前”がある。”そのものの本質を示す絶対的な呼び名”がな。」
彼は、静かに微笑む。
「だからこそ、”禁忌の名前”をつけるな。」
「俺は”王”じゃねぇ。”神”でもねぇ。”巨匠”でもねぇ。」
「俺は”スケアリー”だ。」
そして――
彼は、満足げに言った。
「これがスケアリーイズムだよ。」
🔪アリアの旅立ち
アリアは、ゆっくりと起き上がった。
彼女の身体は痛んでいた。
だが、不思議と恐怖は消えていた。
「……わかったわ。」
彼女は、スケアリーをじっと見つめる。
「あなたは”スケアリー”。それ以上でも、それ以下でもない。」
スケアリーは、にこりと微笑んだ。
「うん、やっと理解できたねぇ。」
アリアは、息を整え、静かに扉へと向かった。
「私はもう、ここにはいられないわ。」
「”静寂の殺人鬼”として、私は私の道を行く。」
スケアリーは、彼女の背中を見送る。
「いいねぇ。”一流の料理人”として頑張ってくれよ?」
アリアは振り返らず、闇の中へと消えていった。
🔪ユリウスの疑問
アリアが去った後、ユリウスはスケアリーを見た。
「……お前、わざとやったのか?」
スケアリーは、楽しげに笑う。
「何のこと?」
「アリアに”恐怖”を植え付けるために、わざとブチギレたんじゃないのか?」
スケアリーは、しばらく考え――
「さあ? 俺はただ、自分の”名前”を大事にしただけさ。」
そして、紅茶をすすりながら言った。
「次の”料理”の準備をしようか。」
ユリウスは、何も言わなかった。
ただ――
彼の背筋には、うっすらと”寒気”が走っていた。
次回 →「執行のレア肉」