第九話「執行のレア肉」
🔪登場:クラウス
コトン、と音を立てて落ちたのは、人間の耳だった。
真新しい冷蔵ケースの中、整然と並んだ人体のパーツ。
指、眼球、舌、心臓、膝――すべて、ラベルが貼られていた。
その部屋の中央に立つ男。
名を、クラウス。
長身で痩せ型。白衣のような黒いロングコートを羽織り、
顔の右側には皮膚を縫い合わせたような跡。片目だけ機械のように鈍く光る。
髪は漆黒、長く結わずに垂れている。無機質。冷徹。異様。
「……やっぱり、手首は“右利き”のほうがよく動く。」
クラウスは、自分の左腕の皮膚をめくり、
内部に用意していた“他人の筋肉”を繋げた。
🔪スケアリーの実況「再構築肉の試食会」
「ひゃははははははははははっ!!!!」
暗闇の隅で跳ねるように笑う影。
――スケアリーだ。赤いスーツの裾をばさりと広げながら、
死体の山をテーブル代わりに座る。
「来た来た来たァ……!“分解”と“再構築”を繰り返す、究極の試作肉(プロトミート)!!」
「自分の肉体を“完璧な形”にするために、他人の肉を選んで、斬って、組み直す――」
「そう、これは“人肉のキメラ盛り合わせ”!!!!」
スケアリーは手に持ったワイングラスを血で満たし、
まるでソムリエのように香りを確かめる。
「右足はサッカー選手、眼球は狙撃兵、脳の一部は詩人……」
「ふふ……これはもう、“肉体に対する詩的冒涜”だねぇえええぇぇぇ!!!!」
🔪ユリウスの出会い
ユリウスがその部屋を覗いたのは偶然だった。
案内もなく開いた扉の先、血の匂いと“異常な静寂”に立ち止まる。
そして、見た。
クラウスが自らの背骨を交換しようとしている光景を。
「……それ、何してるんだ。」
ユリウスの声に、クラウスは目を向ける。
無感情な目。まるで機械。
「補強だよ。“完成形”に近づくためのね。」
「お前は人間じゃないのか?」
クラウスは微笑む。
「――まだ、“人間だった残り香”があると思ってる?」
🔪スケアリーの食レポ「レア状態の自己否定」
スケアリーは仰け反って絶叫する。
「これだよ……これが“自己否定のレア肉”!!!」
「自分を焼き切る前に、他人の肉で埋めようとする!!
その不完全さ、未調理な状態……これが**“生々しい恐怖”のうま味!!!」**
「クラウスってのは、“肉体の理想”を追う料理人にして――
自分自身がその試食係なんだよぉ!!」
「見てごらん、ユリウス。
彼の皿にはいつも、“自分”しか乗ってないのさ。」
🔪ラスト:選ばれた肉
クラウスは一枚の診察表を手に取る。
「今日の素材は……“高校生・男子・優良な骨格”か。」
そして、冷凍庫を開ける。
そこには、生きたまま眠らされている少年がいた。
「よし、まずは……心臓をいただこう。」
次回 → 第十話「肉体のレシピ」