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眠狂四郎
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第一巻『無詠唱の少女』
第一章 王都への旅立ち
朝日が差し込むルミアーナ公爵家の屋敷。
広大な庭には、四季を問わず咲く青い花が風に揺れていた。
その庭の中央で、一人の少女が静かに目を閉じて立っている。
銀色の長い髪が朝日に照らされ、宝石のような蒼い瞳がゆっくりと開かれた。
「……ふぅ。」
少女――ツララ・ルミアーナは、小さく息を吐く。
右手を胸の前に掲げる。
普通ならここで魔法の詠唱が始まる。
『凍てつく精霊よ、我が声に応え、その力を示せ――』
そう唱えるのが、この世界の常識だ。
しかし。
ツララは何も言わない。
静寂。
その一瞬後――
パキンッ……
足元から透明な氷が広がり、庭一面に美しい氷の花が咲いた。
朝日に照らされた氷は、まるで宝石のように輝く。
「今日も綺麗……。」
ツララは嬉しそうに微笑んだ。
その時だった。
「お嬢様。」
聞き慣れた優しい声。
振り返ると、黒髪を腰まで伸ばした少女が立っていた。
純白と黒を基調としたメイド服。
ルミアーナ家専属メイド――ねね。
「朝食の準備ができております。」
「ありがとう、ねね。」
ツララが微笑むと、ねねも優しく笑みを返した。
「ですが……」
ねねは庭いっぱいに咲いた氷の花を見渡し、小さくため息をつく。
「今日も無詠唱で魔法を使われたのですね。」
「……うん。」
「お嬢様。その力は、どうか人前ではお使いにならないでください。」
ツララは少し困ったように笑う。
「分かってるよ。」
その言葉を聞いたねねは安心したように頷いた。
この力を知る者は世界に二人だけ。
ツララと、ねね。
もし他人に知られれば、世界中が騒ぎになる。
だから二人は、この秘密を守り続けてきた。
◇◇◇
朝食を終えた二人は、屋敷の玄関へ向かう。
そこには大きな旅行用トランクが二つ並んでいた。
「いよいよですね。」
ねねが静かに言う。
ツララは窓の外を見つめ、小さく頷いた。
「王立魔法学院……。」
アシュリカ王国最高峰の魔法学院。
貴族や王族、そして優秀な平民だけが入学を許される名門校。
十五歳となったツララも、今日からその学院へ通うことになる。
期待と不安が入り混じる中、馬車の準備が整った。
「では、お嬢様。」
「うん。行こう。」
二人は屋敷を後にした。
馬車がゆっくりと走り始める。
窓から見える景色が少しずつ変わっていく。
森を抜け、川を越え、街道を進む。
数時間後。
「……!」
ツララは思わず声を漏らした。
目の前には巨大な城壁。
その向こうには、王都アシュリアが広がっていた。
高くそびえる王城。
賑わう街並み。
行き交う人々。
「すごい……。」
ツララは初めて見る王都に目を輝かせる。
ねねも穏やかに微笑んだ。
「これからここがお嬢様の新しい生活の舞台になります。」
その時。
街の人々が一斉に道を開け始めた。
「第一王子殿下のお通りだ!」
歓声が響く。
黄金の紋章が刻まれた豪華な馬車。
白馬に乗る騎士団。
そして中央には、一人の青年。
金色の髪を風になびかせ、青いマントを羽織った少年。
アシュリカ王国第一王子――ルーク・アシュリカ。
ルークは街の人々へ穏やかに手を振っていた。
その横顔は、どこか凛としていて近寄りがたい雰囲気をまとっている。
ツララは思わず見つめてしまう。
すると、その瞬間。
ルークも偶然こちらへ視線を向けた。
二人の目が、一瞬だけ合う。
「……?」
ルークはほんのわずかに首を傾げた。
銀髪の少女。
どこか不思議な存在感を放つその姿が、なぜか心に引っかかった。
しかし馬車はそのまま通り過ぎていく。
「今の方が……」
「はい。」
ねねが答える。
「第一王子、ルーク・アシュリカ殿下です。」
ツララはもう一度、遠ざかる王子の背中を見つめた。
その出会いが、自分の運命を大きく変えることになるとは、この時のツララはまだ知る由もなかった。
第一章 終
次回 第二章「王立魔法学院」
ツララは入学式で親友となるアイリスと出会い、そして”魔力測定”で学院中を驚かせる出来事が起こる――。
見てくれてありがとうございます!
ツララとルークの出会いにもこだわりました!第2話は7月21日に投稿させて頂きます(*^^*)
コメント
1件
第3話、読ませていただきました!無詠唱魔法の秘密を抱えたツララと、ねねの信頼関係がまず素敵ですね。「今日も綺麗…」って氷の花を見て微笑むシーン、すごく印象に残りました。そして王子ルークとの一瞬の視線——この出会いがどう転ぶのか、もうワクワクしてしまいます。王都の賑わいや学院生活への期待も伝わってきて、この先の展開が楽しみです!続きを心待ちにしています🌷