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◻︎駒井と駒井っち
「どう思う?」
「んー、なんだか昔の私と同じニオイがするね」
弥生に一緒に歩いてもらって、知らないふりで駒井のあとをつけた。
駒井がやってきたのはATMコーナー。入る前に何か決心したように見えた。思い詰めているようにも見える。
一時期、若いホストに入れ込んでお金を注ぎ込んでた経験がある弥生に、駒井の行動を見てもらった。そして“昔の私と同じニオイがする”という感想を得た。
「あー、やっぱりか!こりゃ、ヤバいよね?どうしたらいいと思う?」
「問題なのは、詐欺だとわかってるのかどうか?お金はきっと返してもらえない、それでもお金を渡してしまうほどの関係だとしたら、闇は深いね」
「わかってるのかなぁ?」
「わかってたとしても、うまく操られてるんじゃないかな?ほら、いつだったか流行ったマインドコントロールみたいなやつでさ」
おろしたお金を銀行の封筒に入れて、バッグにしまって出てきた駒井。こっちを見そうになって慌てて背中を向けた。
「ヤバいね。あれは詐欺だとわかっててもやめられないんだね。悪いことだとわかっているからあんなふうにおかしな行動になる」
弥生が顎で駒井を指す。
「おかしな行動?」
「だって、ATMでお金をおろすなんて普通のことでしょ?なのになんでか周りをキョロキョロしてるし。誰かに見られてもおかしなことじゃないのにね」
「なーるほど」
「ね、弥生さんはどうやってホストから抜けたの?」
「まぁ、最初からホストだとわかってたからお金を使うのは覚悟の上。本気で相手にされてないのはわかってたし。それに自分のお金だけという制限だけは守ったからね。そんなことをしたのも旦那への腹いせのつもりだったし」
「ある意味ロマンス詐欺的なものかな?愛してるよとか好きだよと愛を餌に最初はいい男のふりをして、ある日突然弱みを見せる。この人の弱い部分を知ってるのは私だけなのね、なんて勘違いさせてお金をとるみたいな?」
「そうだねー、きっとそんな感じ。でさ、少し前からなんとなくアドバイス的なことはしてたんだ、でもウザがられてさ、避けられることが多くなった。どうすれば目を覚まさせることができるかなぁ?」
うーん…と、フードコートで頭を抱える主婦2人。
たとえ主婦であっても誰かを好きになることは決して罪ではない、でもそれは守るべきものは守り誰も傷つけないという前提があってのものだと思う。人の道から逸れるということは、それだけの覚悟もいる。
「弱ってるところにつけ込まれたんだろうね」
「そうだね…決定的な、何か?相手の男はあなたのことなんて詐欺のカモにしか見えてないよって事実があればいいんだけどね」
「なかなか話してくれないからね、そもそも不倫してることもひた隠しにしてるし、詐欺じゃないかってことも憶測なんだけどさ」
「でもきっと、美和子さんがいるなら大丈夫な気がする。私も助けてもらったし。だから、目を離さないであげて」
「うん、そうする」
じゃ、行くねと弥生は帰って行った。駐車場に戻ったら、駒井がまだ車にいて、スマホをいじっていた。泣きそうな顔だったりうれしそうだったり、表情がくるくる変わったけど。
___痩せたよね
そう思った。
大量発注があるからと、駒井の代わりに時間を延長して頑張った日の次の日。朝からなんだか元気になった駒井が話しかけてきた。
「あ、いた!美和子さん!」
「おっはよー、駒井っち!用事は済んだ?」
「はい、昨日はありがとうございました。おかげでなんとか…」
「そうか。よかった。一昨日はなんだか思い詰めた感じに見えたから、ものすごいトラブルでもあったかと思ってたんだよ」
何かしらの解決ができたということなのだろうか。私は慣れない長時間の仕事でそこそこくたびれてしまったけど、駒井が元気になれたようでよかった。
「あの…ちょっと話を聞いてほしいんですけど。あ、美和子さんさえよければ!」
「私に?いいけど。今週はずっと予定があるから、来週でもいい?」
遥那の結婚式の打ち合わせもあるし、久しぶりに誠司(私の純粋?な男友達)と会って話す予定も入っている。
「じゃあ、時間があるときに、お願いします」
「了解!さ、今日も仕事がんばろ!」
「はい」
もしかして、不倫の話を打ち明けられるのかもしれない。
___じゃあ、秘密基地に招待するとしますか
誰にも邪魔されずに話すのには、もってこいだから。礼子の邪魔しちゃいけないから、予定を確認する。
火曜日と週末なら礼子はいないらしい。
ぴこん🎶
『明日さぁ、もう1人連れて行ってもいいか?』
誠司だった。
もう1人ってまさか雪平さん?なことはないか。
「いいよ。先にお店に行ってるね」
誠司は離婚する準備をしていると言っていた。離婚して、今付き合っている彼女と結婚したいらしいけど。それについて何か進展があったという報告があるのだろうか。
次の日、仕事をさっさと終わらせて居酒屋へ行った。
「いらっしゃいませ!お連れの方がおみえになりました」
店員に案内されて、誠司がやってきた。その後ろから誠司と同年代に見えるスーツ姿の男性もやってきた。
「悪い!ちょっと仕事が長引いてさ。あ、こちら仕事を手伝ってもらってる、駒井さん」
「はじめまして、駒井です」
「え?あ、はじめまして、誠司の飲み友の田中です」
___駒井って、そんなにある名前じゃないと思うけど、まさかね
きっと偶然だろう。
「3ヶ月くらい前から、俺の仕事…といっても雑用なんだけど…手伝ってもらっててさ。色々お世話になってるから、たまにはお酒でもご馳走しようかと思って誘ったんだよ」
「へぇ!そうなんですか…誠司の手伝い?部下ではなくて?」
「なんていうか、アルバイトみたいな感じで。駒井さんは別の会社でしっかり仕事してるんだけど……」
なんだか言いにくそうな誠司の言葉をとって、その駒井という男性が話始めた。
「なんていうか、このご時世で仕事がめっきり減ってしまいまして。残業もなくなってお給料がですね…で、知り合いの知り合いってことで、紹介してもらって仕事をさせてもらってます。本業を定時で終わらせて、その後必要なレジュメや、パワーポイントの作成をやってます」
「え!定時後にですか?そりゃ大変だ」
「でも、早く帰っても特にやることはないし、これから教育資金も必要になりますしね」
駒井さんは、駒井っちのご主人なんだろうか?確認したい気もするけど。
「そのこと、奥さんはご存じなんですか?」
「いえいえ、言えませんね。なんだかプライドが邪魔してしまって」
「でも、帰りが遅い日が続くと、悪いことで疑われたりしないんですか?」
「悪いことで?浮気とかですか?どうでしょうか?僕のことにはあまり興味がないみたいだし。僕としてはその方が気が楽ですけどね」
駒井違いかもしれないし親戚の可能性もあるし、全くの他人かもしれないから、それ以上は気にしないで楽しくお酒を飲むことにした。
酒のつまみにした話は、誠司の離婚話だった。
「うーん、やっぱり気になる!」
「えっ!何、突然、びっくりするじゃん!」
「ちょっと聞いてよ、礼子はどう思う?」
職場の駒井っちのことと、誠司が連れてきた駒井のことを礼子に話した。
駒井っちについては、不倫をしていて男にお金を渡しているっぽいこと。
駒井さんについては、家族のために減ってしまった残業代を稼ぐために家族に内緒でアルバイトをしてるということ。
「駒井っちについては、ほとんど憶測なんだけどね。多分、その話を私に打ち明けたいんだと思う。どんな話になるのかわからないけどさ」
「憶測と言っても、他の人もそう思うんだったら的外れじゃないと思うよ。もしもとんでもないことに巻き込まれてしまってたら大変だから、美和子がなんとかしてあげなさいよ」
「ふえっ、私が?」
「そ。誰かに聞いてもらうだけで、それまで見えなかった自分の姿を客観的に見られるようになるものだから。そうなるだけで、道を外れることが少なくなるよ」
「それはなんとなくわかる。特に不倫ってさ、本人だけが舞い上がってることもあるし」
「そういう打ち明け話しをするには、美和子っていい存在なんだよね、ちょうどいいというか」
「ちょうどいいがどういう意味かわからないけど、聞くだけ聞いてみるわ」
週末に、ここに駒井っちを招待して話を聞く。
どんな話になるのだろう?
それからは季節柄仕事が忙しく、駒井と話す時間もなかった。
駒井は、契約をフルタイムにしたことで体力がもたないと言いつつ、由香理と話している時も笑っていることが増えた気がした。
週末。
「お邪魔しまーす。あ、すごい!テラスがなんだかリゾートみたいになってる!」
「天気がいいから、ここでお茶にしようか?」
アイスコーヒーを用意して、ゆっくり
駒井っちの話を聞くことにした。
そして『花開く』というサイトで知り合った彼の写真を見せられた。
___まぁ、イケメン?
それからはしばらく、駒井っちのノロケ話しに付き合った。