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とある街の冒険者ギルドにて――。
「スライムマスター、緊急の依頼があるんだが……そうか! 受けてくれるか!」
また、今度は別の街の教会では――。
「ユウヒ様。あなたのおかげで人々の暮らしも良くなります。本当に感謝しております」
夏を過ぎ、秋の気配を至る所で感じられるようになった頃。
私たちはゲオルギア連邦の首都であるプラティヌムの中を歩いていた。
「スライムマスターもすっかり有名になりましたね」
「もうどこのギルドに行っても話しかけられるもんね!」
並んで歩いていたコウカとダンゴがそんなことを話している。
気付けばいつの間にかスライムマスターの二つ名が人々の間に浸透していた。思えば、アイゼルファーや水龍の素材を売ったことが噂に拍車を掛けた気がする。
そして様々な依頼をこなし、どんな依頼でも基本的に受けてくれるという噂が広がったせいで色んな人に頼まれ事をすることも多い。
それも人助けだと積極的に引き受けた結果、現在の私の冒険者ランクはBへと上がっていた。
「ジロジロと見られるのは鬱陶しいわ。大体はノドカのせいだけど」
「ノドカちゃん。目立って仕方ないからね」
私たちはどこに行っても、名乗ってもいないのに“スライムマスター”だと気付かれる。多分、原因はみんなにある。
まず、みんな顔がいい。
7人のうち 6人それぞれが見目麗しい容姿をしている少女の集団があるのだ。自然と目に入るだろう。
そこに空中で寝そべっている少女がいるのだ。完全にスライムマスターだとバレる。
私たちの中ではスライムマスターの名前と共に、宙に浮かびながら眠る少女は有名人なのだ。
それはともかく、注目が集まるようになった今、私としてはこの集団において肩身が狭い思いをしている。
美少女たちの間に放り込まれるのは案外辛いものがあるのだ。
すれ違う人にジロジロと見比べられるような視線を受けることも多々ある。
私もそれなりに整っている方だとは思うのだが、やはり比べられると見劣りしてしまうだろう。
「あはは。ノドカだけが原因じゃなくて、みんなが可愛いから注目されているんだよ。私としては、比べないでほしいなーって思うんだけどね」
軽い冗談のつもりだったのだが、ヒバナとシズクに信じられないものを見る目を向けられた。
「……可愛いって……コウカねぇのことも言ってる?」
「え? うん」
コウカなんてその最たるものだろう。
150センチにも満たない少女なのに澄ました顔は凛として美しく、笑顔を浮かべるとそれはもう可憐な美少女である。
迷わずに肯定すると、2人だけでなくダンゴまでもが絶句している。
――え? コウカ可愛いよね?
「……前から気付いていないような気はしてたけど……」
ヒバナが頭を痛そうに抑え、首を振る。
彼女はコウカを呼び出すと、私の隣に立つように言う。そして、シズクの名前を呼んだ。それだけでシズクはヒバナの意図を汲み、水の魔法を使う。
円形となった水が私のコウカの前に浮かぶ。
上手く制御することによって水を波立たせず穏やかな水面を維持しているそれは、どうやら鏡代わりのようだ。
「えっと……」
「いいから、見比べてみて」
私はこの鏡でどうすればいいのだろうかと悩んでいるが、コウカと私の顔を見比べればいいらしい。
――ふむ……あれ、同じ?
髪と目の色は違うし、少しコウカの方が幼い顔立ちに見えるがそれを除けば顔付き自体は私もコウカもほぼ同じに見える。
あとは黒子の有無だろうか。一番目立つところで、私の目尻の下にある黒子がコウカにはない。
でもコウカの目のほうがキリっとしていて凛々しく見えるかも……ってそういうことじゃない。
「どういうこと……?」
「どうもこうも……」
「あ、あたしたちって……最初から人の姿が決まっていたわけじゃないよ……?」
そういえば、人の姿を形作るために参考にした人がいたと前に聞いた気がする。それって私のことだったのか。
よく考えてみれば、私以外に参考にできるほど長く一緒にいた人間なんてほとんどいない。
どこかで見た気がしたコウカの顔は、自分の顔だったというわけだ。
――それって自分で自分を褒めちぎっていたみたいなものじゃないか。すごく恥ずかしい。
「お姉さまは~もう少し~自信を持って~?」
「うんうん、目立っていたのはボクたちだけじゃなくて、主様もだよ!」
少し現実を受け止めるまでに時間が必要である。
みんな、本当に姉妹のように見えるが、それはそれぞれの容姿が周りの人物から影響を受けているのだから当然だったのだ。
なら、もしかして私も他の人からはそう見えているのだろうか。
――そうだ。じゃあ、あの子も。
私から少し離れた場所で佇んでいた少女に目を向ける。ダンゴと同じくらい小さな少女だ。
彼女は感情を見せない銀色の瞳で、こちらを見つめていた。
何を隠そう、少女の名前はアンヤ。6人目のスライムだ。
膝裏まで届くほどの非常に長い髪は首の後ろでリボンによって1つに結ばれている。
その長髪が非常に特徴的で、毛先に掛けて髪色が黒から白のグラデーションとなっているのだ。
これが地毛なのだが、どうなっているのかは分からない。ただとても綺麗ではある。
彼女をパッと見た印象としては黒が強い。髪色は白い部分の方が比率的には多いのだが、それは服装に因るものだった。
首から手先をはじめとする、一部を除いて全身を包み込んでいるインナー。肘下まで隠すように羽織っているケープにショートパンツ。
さらには編み上げブーツを身に纏っているのだが、そのどれもが一部を除いて黒系統に近い色なのである。
まあ、その服をチョイスしたのは全て私である。
アンヤの戦闘スタイルと見た目を鑑みて、動きやすい服装や戦いやすそうな服装を選んだのだ。まさか、それしか着ないとは思わなかったが。
あとは進化した時にまるでコウカのように全裸で現れたのには驚いたが、それはまあ置いておこう。
「アンヤ、ちょっと来て」
「……………………」
私はアンヤを手招きして呼び寄せる。
彼女は表情を変えないまま、素直に私の側まで歩いてきた。
彼女が歩く度に長い髪と共に三日月を模った髪飾りが太陽光を反射し、揺れている。
目の前で私を見上げる少女の身体を私の隣に並ぶようにして、鏡と向き合わせる。
――うん、やっぱり似ている気がする。
コウカよりもさらに幼い顔付きのアンヤだがコウカ、ひいては私と顔付きが似ていた。
常に無表情な子なので、人に与える印象は大いに違ってくるだろうが、それでも姉妹らしく見えるだろう。
「アンヤはコウカを参考にしたの? ……それとも、もしかして私だった?」
「……肯定」
――肯定って……。
静かな呟きのような発言の内容に思わず苦笑いを浮かべてしまうが、これでも良くなった方ではある。
そもそも最初は進化してからずっと喋ろうとしなかったのだ。それが最近になって、少しだけ話してくれるようになってきた。
彼女が初めて言葉を発したときは小躍りしてしまったものだ。
返答もごく短いものだけでまだまだ話し方も未成熟な子だが、会話を通したコミュニケーションを取れるというだけでも楽しい。
結局、どちらに対する肯定なのかは分からないが別にどちらでもいいかと思い直すことにした。
「なるほど、アンヤもマスターのことを……流石ですね!」
何が流石なのか一切不明だが、コウカ的にはアンヤが私を参考にしたかもしれないということは好印象だったらしい。
それから私たちはある武具店の前にやって来ていた。
店の入口の案内看板を見て、間違いがないかを確認する。
――ルドック武具製作所。ここがこの街に来た最大の目的でもある。
「うわぁ、何だか変わってるね!」
「うぅ~、眩しい~……」
腕がいいと噂の鍛冶職人が営んでいる武具店らしいが、周りから大きく浮いてしまっている。というのも、この店は外壁が全て金属で出来ていたのだ。
そのせいでキラキラと太陽光を反射してしまっているため、非常に眩しい。まるで店そのものが光り輝いているようだ。
これも全て噂通りであった。鉄鋼を愛する変人で、自分で鋼の建物を建ててしまったらしい。
こんな建物を作れるほどなのだから、当然腕の方にも期待ができる。
立派な剣をコウカには持たせてあげたい。そんな思いを胸に秘めながら、店内へと一歩を踏み入れた。
内装は案外、普通だった。
種類問わず様々な武具が並べられており、噂になるだけあって色んな人がそれぞれ武具を見ている。
近くに立て掛けてあった槍を見てみるが武具自体は建物の外見に見合わず、堅実な作りのようだ。
値段も確認してみる。やはり値段は高いが、それは品質に裏付けされたものだろう。
今日まで貯めてきたお金を使えば十分払える額だった。
次に剣が置いてあるコーナーへ向かう。
他のコーナーが見たいというダンゴにはヒバナとシズクが付いていってくれるようだ。
「へぇ……なるほど」
コウカが剣を一本一本手に取りながら、時折頷いている。
かつて私も護身用に剣を持っていたのだが、コウカにあげて以来一度も手に取っていない。一応、持っていても良いと思うのだがまず使う機会がない。
せっかく剣の使い方を教えてくれたミーシャさんとベルには申し訳ないが、私の剣術は上達しないだろう。
コウカに贈ろうと思っている剣はここにはないのだが、集中して見ているようだからしばらくはそっとしておこうかな。
「……あれ、アンヤ?」
気付いたら、私の側からアンヤがいなくなっていた。
コウカはずっと剣を見ているし、ノドカは店に入った瞬間に寝てしまった。誰もアンヤがどこに行ったのかを知らない。
慌てて探し始めると幸いにして、すぐにアンヤの後姿を見つけた。
どうやら、投擲武器のコーナーを見ているらしい。
彼女が自分から何かに興味を示すのは珍しいなと驚きつつも、自然と口角が上がる。
ボーっと武器を眺めていたアンヤに声を掛けようとして近付いていった私だったが次の瞬間、彼女が起こした行動に固まってしまう。
なんと彼女は手に取った武器を《ストレージ》に収納してしまったではないか。
完全に万引きだった。
「待ってアンヤ! 出して出して!」
「…………?」
振り返った彼女は私の目をジッと見つめて、わずかに首を傾げた。
――この子、何が駄目だったのかを理解していない。
「お店の物は勝手に持っていったら駄目だよ。ちゃんとお金を払わないと」
私はアンヤの盗った物を出してもらおうと手を差し出す。
彼女は私の手を数秒の間、眺めていたが、ようやく理解してくれたのか《ストレージ》の中から武具を取り出して乗せていってくれた。
――大量の投擲用ナイフを。
「ちょ、ちょっと待って! 多い、多いから!」
手の上から零れそうになるナイフ。
だが零れる前にアンヤが取り出すのをやめてくれる。私はホッと息をついた。
思えば、彼女が自分から物を欲しがったのは初めてか。
お金は十分持っているはずだから、物を盗ろうとしたわけではないだろう。そもそも知らなかったのだ。
アンヤには物を買う仕組みを教えてあげないといけない。他の子にはなかったことではあるけど、この子は少し常識的なことに疎いのだと思う。
「これ、アンヤが欲しいんだったらちゃんと買いに行こう。お金は持ってるでしょ? 付いていってあげるから、自分でお金を払って物を受け取るところまでやってみようか」
アンヤはジッと私の手の上に乗っている投げナイフの山を見つめていたが、やがてほんの少しだが確かに頷いた。
その様子を見て非常に嬉しく思った私はナイフを一旦棚に戻してから、彼女の頭を撫でる。
そしてそれに満足すると、その手を引きながら会計へと向かった。
「マスター、何かありましたか?」
眠っているノドカを引っ張っているコウカが近寄ってくる。
どうやら心配して見に来てくれたらしい。
「大丈夫。ちょっとアンヤが欲しいものがあったみたいで今から買いに行くところ」
「アンヤがですか?」
コウカもアンヤが物を欲しがったことに驚いていた。
物欲どころか人の三大欲求すらあまり感じられないアンヤのことだ。それも仕方がないことだろう。
目の前にいる彼女とは大違いだと思う。
私の目の前にはコウカの他に現在形で睡眠欲を満たしている子がいる。だがこの子も欲求のバランスは大いに崩れていた。
「ああ、そうだ。コウカの剣はお店に置いている既存の物じゃなくてオーダーメイドでお願いしようと思ってるから、そのつもりでいてね」
2人を加えて会計へと向かう最中、忘れてはいけないと前から考えていたことをコウカに伝える。
「オーダーメイド?」
「そうだよ。コウカの為だけの最高の剣を作ってもらうんだ」
私の言葉に彼女は目を見開いて固まる。
そして数秒後、再起動すると目をキラキラとさせて、「わたしだけの……」と呟いていた。
目に見えて機嫌が良くなったコウカを見て、私も嬉しくなる。
その後は無事に大量のナイフを購入――全財産を出して支払おうとするハプニングはあったが――し、ダンゴたちとも合流した私は店員さんにオーダーメイドをお願いできないかを聞いてみた。
「あー、無理っすねー。他に頼んでほしいっす」
「……理由を聞いても?」
すごく店員の態度が悪い。ムッとする心を抑えつつも理由を尋ねる。
理由を聞かないまま引き下がることはできない。それに私が怒ってしまうとコウカが何をしてしまうかが怖い。
店員は面倒くさそうにしながらも何故無理なのか、理由を語りはじめた。
「うちの親方の作る武具って人気っすからねー、1ヶ月先まで予約がいっぱいなんすよ。それに品質にも拘ってるんで、そもそもお客さんでは払えないっすよ」
前半の理由は理解できたが、後半の理由は理解できない。
私たちはお金を持っていないだろうと見た目だけで軽んじられているのだ。それに1ヶ月待ちでも作ってもらうことはできるはずだし。
だが嘗め回すように私たちを見ていた店員さんがある一点を見て固まった。
見ているのはどうやらノドカのようだ。
「あー……お客さんは噂のスライムマスターっすか?」
「……まぁ、そう呼ばれていますけど」
やはり浮かびながら寝ている少女の知名度と見た目の分かりやすさは凄まじいようだ。
店員はブツブツと呟きながら何やら考え込んでしまった。
「スライムマスターならもしかすると……いや、でもB級…………いやー……どうっすかねー……」
彼の考え事がいつまでも終わらない。
声を掛けたほうがいいのか悩んでいると、店の裏手の扉が勢いよく開いた。
「おーいピエロ! 武具を運んでくれぃ!」
扉を潜るように店内に入ってきたのは2メートルを優に超えているであろう、屈強な大男だった。
その声は店の窓ガラスを震わせ、歩くたびに店内に並べられている武具たちが揺れる。
「へ……親方!? ……へい、ただいま!」
ピエロというのは私たちの相手をしていた店員のようだ。
オーダーメイドの件はどうなるんだろうと思っていると、“親方”と呼ばれた大男が「おぉ?」と私たちを凝視している。
大男はピエロという店員と入れ替わりに私たちに近寄ってくると破顔した。
「ガーハッハッハッハッハ、これはおもろい客が来たもんだなぁ!」
黒髪に赤眼の大男。彼はルドックと名乗った。つまり、ルドック武具店の主人だろう。
丁度いいので、彼に直接頼むことにする。
すると意外なことに快く引き受けてもらえたため、彼の作業場へと連れて行ってもらうことができた。
「ガハハハハ、剣を求めているのはその嬢ちゃんか!」
「……コウカ?」
ルドックさんはコウカとの面談を望んでいるようだが、コウカは怖い顔をしてルドックさんを睨んでいる。
さっきまで新しい剣を楽しみにしていたのにどうしたというのだろうか。
「……いえ、何でもありません。はい、わたしです」
「おぉう……?」
怖い顔を和らげ、コウカは曖昧に笑う。ルドックさんはそんなコウカの様子を見て軽く瞠目していた。
そこからは話がトントン拍子に進んでいき、コウカの戦い方や身体の大きさなどから正確な性質を持つ剣を考えてくれているみたいだ。
「ふむ、こりゃおもろくなりそうだ!」
ルドックさんは興奮した様子でコウカの力を見ている。
「よしよし、お前さんに合う最高の剣を考えた! こんなにおもろいもの、どんな依頼よりも優先して作ってやろう!」
「いいんですか!?」
「まずは前金として、白金貨30枚を貰うがな!」
喜んだのも束の間。
その言葉を聞いた瞬間、私たちは凍り付いた。
「……白金貨、30枚ですか……?」
恐る恐る聞き返すと、ルドックさんは「いかにも!」と大声を上げた。
「これでもだいぶ安くしとる! オーダーは嬢ちゃんに合う最高の剣。吾輩が軽く見積もっただけでも、白金貨50は下らん最高の剣になる!」
――さ、流石に払えない。
それだけお金を掛ければ確かに最高の剣になるだろうけど、全員の財産を掻き集めたところでそんな大金は払えないだろう。
ピエロという店員が渋っていた理由が分かった気がする。この人、遠慮なく大金を要求してくる人なんだ。
これには困ってしまった。最高の剣は用意してあげたいけど、払えない。
他の鍛冶職人に頼んでもいいが、最高に腕のいい鍛冶職人という噂を聞いてここまで来たのだ。他の人に頼んでしまったら、最高の剣ではなくなってしまう。
そんな私の様子を見兼ねたのか、コウカが口を開いた。
「やっぱり、要りません」
「よいのか? 吾輩の作る最高の剣だぞ?」
きょとんとした表情で問い掛けてくるルドックさんにコウカは毅然とした態度で返した。
「私にとっての最高の剣は最強の剣じゃありません。今の私にとっての最高の剣はこの剣です。あなたの作る剣ではない」
そう言ってコウカが取り出したのは所々刃こぼれを起こしている安物の剣だった。
それを最高の剣と言い切ったコウカによって、その場にいる全員が微妙な雰囲気に包まれる。
「……まあ、何だ。流石にこのまま帰すのも治まりが悪いしなぁ。その剣を鍛え直すくらいはしてやろうとも!」
「えっと……いくらくらい掛かりますか」
「ガーハッハッハッハ、心配せんでも白金貨1枚……いや、特別に大金貨5枚でいいぞ!」
――やっぱり、めちゃくちゃ高かった。
◇
「本当によかったの? 他の鍛冶職人さんに作ってもらうこともできたんだよ?」
「はい、今のわたしにはこれ以上の剣はないと気付いたんです」
そう言ってコウカは鍛え直してもらったばかりの剣を取り出した。
やはり腕のいい職人が作ると違うらしい。刃こぼれ1つない剣が太陽光を反射して煌めく。素材からして違うんじゃないかと思うくらいだ。
「それに……あの男にはどこか嫌悪感を覚えます」
「え?」
コウカが人に対して、ここまで好悪の感情を露にするのは珍しい。
敵意を持つ相手だったらその限りではないが、ルドックさんはそんなタイプじゃない。
――ルドックさん、煩くて豪快だけどそんなに嫌悪することもないと思うんだけどな。
金属を愛する変人という話もあったが、そんなこともなかったし。
単にコウカとは折り合いが悪かったのだろうか。
「見て見て、姉様! ボクの盾!」
「わぁ~、よかったね~ダンゴちゃん~」
コウカの剣のついでにダンゴの盾にも手を加えてもらっている。
戦いの中でボコボコになっていき、相手の攻撃を受け流すことにも苦労するようになっていた盾がキラキラと輝いていた。
やっぱり、あの人は最高の腕を持つ鍛冶職人らしい。……追加で大金貨をさらに5枚取られたが。
コウカの分は私が支払い、買い食いをすることが多くてお金に余裕がないダンゴは時折寝具を集めている以外あまり物を買わないノドカから少しお金を借りたようだ。
私がコウカの分を支払ってダンゴの分を少しも払わなかったのは、コウカとは前から約束していたことだからだ。
これでダンゴの分まで払ってしまえば、みんなにお金を分配している意味がない。
欲しいものを手にするにはお金が必要という金銭感覚を身に付けてもらうためにも、そこは厳しく行こう。
私が買ってあげたいと思ったものは別として。
あとお金を借りたらちゃんと返すことを徹底させておこう。
金銭トラブルは怖いと聞く。そんなことでみんなの仲に亀裂が入るなんて勘弁したかった。