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「お~い!」
「ジンさんやぁ~!」
「いたいた! こんな所にいた!」
振り返ると、松吉と何人かの島の住人がこちらへ向かって歩いてきた、みんな笑顔で、手に何かを持っている
「あの、これランニングをしていたら・・・頂き物で・・・」
「いやぁ~わしの四番目の弟の嫁がお前さんに話があるそうじゃ、ここらへんを走っとると聞いたもんでな!」
ジンが挨拶をしようとした瞬間、一人の桜の親戚の伯母さんが前に進み出た
「ねぇ~ジンさんは韓国のお方でしょう?」
「あ・・・ハイ・・・そうですが・・・」
「このキムチちょっと味見してくれない?」
そう言うと、伯母さんは大きなタッパをジンの前に突き出した、蓋を開けると、鮮やかな赤い色のキムチが目に飛び込んできた、見た目は悪くない、むしろ、丁寧に作られているのが分かる
「どうぞどうぞ、遠慮しないで、一口食べて感想が欲しいのよぉ~」
隣から別の伯母さんが箸を差し出した、もう誰が誰かわからないが桜の親戚ということだけはたしかだ、ジンは言われるまま箸を受け取り、一口、そのオバサン自家製のキムチを口に入れた
シャクシャクとした歯ごたえ、程よい辛みとなじみのあるニンニクの香りが口いっぱいに広がった
―モグモグ―
「どうかしら?」
松吉はじめ、伯母さんたちが期待の眼差しでジンを見つめている
「えっと・・・美味しいです・・・美味しいですけど・・・」
ジンは言葉を選びながら続けた
「まろやかさがちょっと・・・」
思わず本音が口をついて出てしまった
「ほらぁ~! やっぱり!」
「あら!まぁ!」
伯母さんたちが顔を見合わせて頷いた
「私達、韓国旅行に行った時のキムチの味が忘れられなくて、自分で作ったのよ」
もう一人の伯母さんが言う
「どうしてこんなに違うのかしら? ちゃんとレシピ通りに作っているのに」
確かに美味い・・・だが、何か物足りない、ジンは母がキムチを作っていた時のことを思い出した
ソウルの小さなキッチンで、母は丁寧に白菜を塩漬けにし、ヤンニョム(薬念)を作っていた、あの時の母の手つき、使っていた材料・・・
―たしか・・・オンマ(お母さん)は・・・―
「もう少し、香辛料を入れてみる?」
一人の伯母さんが提案したが、ジンは首を横に振った
「いえ・・・辛さはこれで充分だと思います・・・でも・・・」
ジンは記憶を辿りながら、慎重に言葉を選んだ
「ひょっとしたら・・・エビかもしれません・・・うちの母親は甘エビを入れていました」
一瞬の静寂が降り注ぎ、そして——
「それよ!」
「それじゃ!」
全員の顔が一斉に明るくなった、まるで頭の上に電球が灯ったかのように
ワハハハ!「よっしゃ!!これから山田旅館の厨房でジンさんのキムチ講習会じゃ!」
松吉が豪快に笑った
「いいわね!!町のみんなに知らせるわ!」
「大変!みんなを集めなくちゃ!」
別の伯母さんが早速携帯電話を取り出した
「え? ち・・・ちょっと!」
ジンは慌てて手を振ったが、もう誰も聞いていなかった
「うちの旦那にも教えたいわ!」
「ジンさん、材料は何が必要? リスト作るから!」
ワハハハ「ワシの旅館の厨房の食材何でも使え!」
ジンは困惑しながらも、どこか温かい気持ちになっていた、大阪では、こんな風に人々に囲まれることはなかった
ビジネスの場では、彼は「鬼上司」として恐れられ、距離を置かれていた、でも、ここでは違う
ここでは、ジンは「桜の婿殿」であり、「韓国のお方」であり、そして何より——「家族」の一員として迎え入れられていた
「それじゃぁ!1時間後に山田旅館の厨房に全員集合じゃ!!」
「ジンさん、よろしゅ~ね~♪」
「え?・・・あっ・・・でも・・・ほんとに・・・」
伯母さんたちは満面の笑みで、風のように去って行った
「あ・・・はい・・・」
ジンは小さく呟き、有無も言わさない島の人々に圧倒されていた
コメント
2件
ジンさん圧倒されながらも、断れず😁お母さんのキムチの味😊きっとめっちゃ美味しいんだろーなぁー😌 本場のキムチ講習会楽しみ、ジンさん頑張って👍
わぁ〜楽しそう😄 ジンさんのキムチ講座おばちゃんも参加したい🤣 親族の皆さんの気さくで温かい人柄も最高✨️