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見失ったリューデシアを再び見つけたのは医務室だった。目覚めたばかりのリューデシアは目覚めたばかりのソラマリアに抱き着き、涙を流して謝罪を繰り返している。そして包帯の巻かれたソラマリアの首筋を撫でようとして、怒れる癒す者トゥカリーサに阻まれていた。


ソラマリアの困惑は語らずとも伝わって来た。自分を刺した女の、かつて自分の名を奪って魂を操っていた女の、説明のつかない態度の激変ぶりに思考が追い付いていないのだ。


「ごめんなさい、シャリューレ」とリューデシアは涙声で言った。「あの時、大王国に帰還していればこんなことにはならなかっただろうに」

「……いや、どうだろうな。あるいは、そうかもしれないが」とソラマリアは言葉を濁す。


ソラマリアがこうしているのはレモニカが家出したからだ。レモニカが家出したのは呪われたからだ。ではリューデシアが帰還していたなら、そもそもレモニカは呪われなかったのだろうか。もはやレモニカを呪ったのが聖女アルメノンことリューデシアだ、という話にすら疑念が生まれている状況ではそれも定かではない。


「シャリューレ、私を助けに来てくれたんじゃないの?」とリューデシアに尋ねられ、ソラマリアは助けを乞うようにレモニカの方へ視線を向けた。


説明していないことはまだまだあった。ユカリの旅の目的、魔導書に関する物事と、レモニカの旅の目的、呪いに関する物事を、レモニカは皆の助けを借りつつ説明した。


「ソラマリア、良い名前だね」とリューデシアは噛み締めるように呟く。「私のことは何て呼ぶの?」

「リューデシアと呼んだ方が良さそうだ」

「賢明だよ」とかつてアルメノンだった女は大きく頷く。「ところで、ちょっと老けたね。ちょっとだけ」

「もう二十年になるからな」とソラマリアはこともなげに呟く。


その実力は散々に思い知って来たが、レモニカは改めて恐れ入る。今の自分よりもずっと若い頃にソラマリアは一人敵国に潜入し、人攫いの被害に遭った護女たちを攫い返したのだ。


「そんなに!?」と叫んでリューデシアは周囲を見渡す。レモニカと目が合う。「そっか。そうだよね。知らない妹がこんなに、大きいんだもの」


またもや説明不足だった。今のレモニカの姿はモディーハンナなので、リューデシアの納得は的外れだったが。

ソラマリアに引き剥がされたリューデシアは寝台の端に座る。


「それで、レモニカの呪いを解くための旅って具体的にどうするの? 私を殺す訳じゃないよね?」

「それはもちろん」とレモニカは肯ずる。「仮にお姉さまが本当に悪党だったとしても、そのような手段は選びませんわ」

「そうなの? 他に手段がなくても? その呪いと共に生きて行くの?」


試しているのか否か、レモニカの姉は臆することなく問い詰める。


「ええ、その場合はそうです。ですが、解呪する以外にも対策はあります。こうして周囲に害のない姿に変身するのもその一つです。もっと良い方法もあるかもしれません」


今の所まだ、レモニカを心底嫌っている人物には出会えていないが。ソラマリア以外には。


「解呪できたなら大王国に戻るの?」とリューデシアは続けざまに問いかける。

「ええ、そうなると思います。ええ、それはもちろん」

「戻ってどうするの? 私たちは兄上のような人望も無ければ、政治的後ろ盾も無いに等しい。分かっている? というか兄上だけが後ろ盾なんだよ。今戻っても兄上の手駒になるだけだよ?」

「お姉さまこそ戻ってからはどうなさるおつもりなのですか?」とレモニカは苦し紛れに尋ね返す。「わたくしよりもっと厳しい立場なのに」


何せライゼン大王国にとっては長年対立してきた十都市連盟の盟主シグニカ統一国の指導者でもあるのだ。知らぬ者が経緯を聞けば、裏切り者と謗ることもあるだろう。


「私? そうだねぇ」リューデシアは真剣な表情で黙考したと思えば、明るい笑顔を見せる。「友達を沢山作りたいな」




姉の問いに満足に答えられず、王女としての自覚、至らなさを知り、レモニカは一人要塞を巡るように散策していた。姉の最後の言葉とて、王女にしては能天気なようにも思えたが。


再び広場へと戻って来た時、やはり明々と燃える篝火のそばでユカリと出会う。すっかりその篝火の周囲がこの港めいた要塞内広場の憩いの場のようになっていて、幾つかの長椅子や机が設置され、休憩中の者たちが寛いでいる。


ユカリは石の天井の下、粗末な椅子に座って、使い魔身繕う者ハイネリーンに髪を切ってもらっていた。


「ユカリさま!? 髪をお切りになったのですか!? 一体なぜ!?」レモニカはまるで何かの権利を侵害されたかのように訴える。

「いや、整えてもらってるだけ。髪の毛はほら、ベルニージュがうるさいから。触媒がどうのこうのって」


確かに組紐に解放され、纏めていない時は腰にも届きそうな長い髪が、背中の下の方まで届きそうな長さになっていた。つまり大した変化はない。


「そうですか。確かによく似合っていますわ」と言ったレモニカは身繕う者ハイネリーンの視線に気づく。「何か?」

「前から思っていたんだけど、レモニカ嬢、とっても美人だよね」と身繕う者ハイネリーンが脈絡もなく褒めた。


今の姿はやはりモディーハンナだ。本来のレモニカの姿ではなく、その上本来のモディーハンナの姿とも言えない、やつれた姿だ。

身繕う者ハイネリーン自身も人間に変身してはいるが、あまり上手とは言えない。髪の代わりに羽が生えているし、腕が十数本ある。櫛や手鏡、無数の化粧道具を握りしめていた。


「耳を貸さなくていいよ、レモニカ」とユカリが忠告する。「ユカリ派らしいけど、こいつも美人の肉体を狙っているだけだから」

ですか!?」そう言ってレモニカは一歩引きさがる。「大丈夫なのですか? そのような者に髪を切らせて」

「やだなー」と身繕う者ハイネリーンは言った。「ユカリ嬢の体を狙うわけないよー」

「え? 何? どういう意味? 喧嘩売ってるの?」とユカリが脅す。

「違うってば。ユカリ派だからってこと。もう、疑り深いんだから。ユカリのこと魔法少女だって信じてるんだよ。私はさ」


ユカリは身繕う者ハイネリーンを無視してレモニカに視線を向ける。「それでレモニカはどうかしたの? レモニカも髪を切ってもらう?」

「いえ、その、お尋ねしたいことが。ユカリさまは全ての魔導書を集めた後のことを考えていらっしゃるのかな、と思いまして」

「何も考えてないよ」とユカリは即答した。「それが世界から争いを減らすことになるって信じてるけど、その後のことは後で考えればいいかな、と思ってる」


「不安ではありませんか? その先が定まっていないというのは」

「え? 問題を解決した後のことが? 考えすぎだよ、レモニカ。いや、むしろ考えなさすぎ? ……あ、ごめん。そういう意味じゃなくて」

「いえ、確かに目の前の問題に集中していれば、後のことなんて思い悩む余裕などないはずですわ」

「そうだね。そういうことかも。もちろんそうは言っても、気になるものは気になるっていうのも分かるけどね。でもまあ、一人に解決できる問題は一つずつなんじゃないかな?」


そうかもしれない。いや、それですら楽天的な方かもしれない。実際には複数人で一つの問題を解決しなければならないことの方が多いくらいだ。


「はい。ありがとうございます。やっぱりユカリさまはわたくしの目標ですわ」

「大袈裟だよ。レモニカだって問題を一つ一つ乗り越えてるんだから。呪った本人と邂逅するところまで来たんだよ?」


全くその通りだ、とレモニカは納得する。かつて家出した時は解決策が見つかる期待などほとんどなかった。当時は原因すら分かっていなかったのだ。実際の所、今も解決策の期待は無いにもかかわらず、レモニカの胸の内には確かに希望があった。それは何故だろう。

再び礼を言って、レモニカはその場を離れた。今はやるべきことに、やるべきことだけに向き合おう、と心に決める。

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