テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
「温泉か。俺も全然行ってないなぁ……。ひとまず今日は、こっちでテキトーに宿泊して、明日の朝イチで草津に行くか」
「テキトーに宿泊って、どうせラブホでしょ?」
「当たり前じゃん。そうと決まったら、まずは新宿だな」
拓人が、新宿方面に向かう車線に進路変更させると、フッと小さく笑う。
「新宿に着いたら、あんたを可愛がってやるから、楽しみにしてろよ?」
「もうっ! バカッ……!」
早朝にも抱かれ、これからまた抱くと予告する男に、優子はフイッと顔を逸らした。
拓人の車は、東新宿にある、ダークブラウンを基調とした、リゾートホテルを感じさせる雰囲気のラブホテルへ、車を滑り込ませる。
「あれ? 新宿じゃないの?」
「新宿、といっても、ここは東新宿だけどな」
拓人がステアリングを切りながら、ホテルの地下にあるパーキングスペースに、愛車を駐車させている。
「東新宿……ね……」
彼女の声音が、曇ったような響きを纏わせる。
東新宿といえば、松山廉が住んでいる場所。
最後に彼と会った時に、俺の家に来ないか、と言われた事を、優子は不意に思い出していた。
(専務は、この周辺に住んでいるんだよね……)
「どうかしたのか?」
怪訝な表情を覗かせている男に声を掛けられ、彼女が小さく身体を震わせる。
「ううん、何でもないよ。東新宿は初めてだし。アンタは仕事柄、ラブホは詳しそうだよね」
「ああ。ここも以前、男娼をやってた頃に何度か行ったな。部屋の雰囲気がいいんだよ」
男が運転席のドアを開けて、助手席側へ回り込み、優子を外に出るように促す。
「とりあえず、ホテルの中に入るか。まぁ…………今日も車での移動が長かったし、あんたに、その気がないんだったら……無理にはしないから」
拓人の言葉に、優子は虚を突かれる。
今まで自分本位で優子を犯してきた男の言葉とは思えず、彼女の面差しが、驚きの表情に染まった。
「また、そんな事を言って。部屋に入ったら、すぐにでもヤるん──」
「無理してセックスしても、あんたはつまんないだろうし、苦痛になるだけだろ? ホラ。中に入るぞ」
ポカンとしている優子を尻目に、男は細い手首を掴むと、ホテルの入り口へ向かっていく。
この日の夜、身体を清めた二人は、情交せずに、ただベッドの上で眠っただけだった。